感染症内科BSLレポート
「肝機能がどの程度下がると抗菌薬投与のリスクと考えられるか。またその指標は何か。」
<序論>
抗菌化学療法で注意すべき合併症の一つに肝機能障害がある。特に肝障害が慢性的な経過をとった場合には肝内での抗菌薬の代謝機能が減退することが問題となる。しかし、肝障害時の薬物投与計画の理論は現在のところ確立していない(1)。そこで文献検索を通し肝機能障害時の抗菌薬投与によるリスクと指標について調べることとした。
<本論>
一般的に、化学物質による肝障害の主要なタイプとして、直接毒性によるもの(DILI)と、特異体質性によるもの(IDILI)が知られている(2)。
直接毒性による中毒性肝炎は物質に曝露される個人に予測可能な規則性をもって発症し、また用量依存的である。潜伏期間は数時間と短いが臨床症候は24~48時間遅れて発現する。直接毒性を持つ薬物には四塩化炭素やアセトアミノフェンが代表的(2)である。抗菌薬の内ではテリスロマイシンが例として挙げられる(3)。
特異体質性の反応は1000~10000例に1例とまれであり、予測は不可能である。用量依存性は明白ではなく、発症するタイミングも定まっていない(2)。しかし、近年の研究により何種類かの薬剤には用量依存性があることが示唆されている。Uetrechtの研究によると、重度の肝障害に関連するほとんどの薬物は1日50mgを超える用量で処方されていることが示唆されている(3)。IDILIの病因の検索方法としてはまず肝臓生検があるが、リンパ球浸潤を伴う広範なアポトーシス壊死および様々な程度の短銃うっ滞所見からなり、これは重症ウイルス性肝炎の所見と酷似していることから非特異的である。バイオマーカーとしては損傷細胞から放出されるmiR-122などのRNAがあるが、これについても非特異的である(4)。
<結論>
文献検索の結果、薬物性の肝障害は他の疾患との鑑別が非常に難しく、他疾患を除外した上で、患者の副薬歴やその投与量といったエピソードをもとに診断を付けなければならないことが分かった。
また、抗菌薬による肝障害は非常にまれであり、抗菌薬による肝臓への障害についての文献は存在したものの、肝機能による抗菌薬投与の調節についての文献は私が調べた限りでは見つからなかった。
したがって結論としては1日50mgを超える抗菌薬の投与を続けている患者においては常に薬剤による肝機能への負担に留意しつつ、抗菌薬による感染コントロールのメリットと肝障害のデメリットを比較した上で抗菌薬の調整については考えるべきである。
(参考文献)
1. 「抗菌薬使用の手引き」 日本感染症学会 日本化学療法学会
2. 「ハリソン内科学 第5版」 福井次矢 黒川清
3. Drug-induced liver injury: a clinical update : Marwan Ghabril 16 August 2011 Curr Opin Gastroenterol
4. Acute liver failure induced by idiosyncratic reaction to drugs: Challenges in diagnosis and therapy :
Shannan R. Tujios 03 August 2017 Liver International
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