BSL感染症内科レポート
腎移植後の下痢をどのように鑑別するか
腎移植後の下痢はレシピエントの脱水や薬の毒性の増加、拒絶反応を引き起こすことがある。今回担当した症例の備考欄に「まずは、ウイルス性胃腸炎疑い」という記載があったため、他に何を想起し、何をもって優先順位を決めたのかが気になり、上記のようなテーマ設定とした。
まず、臓器移植後の感染性下痢の原因として多いのがCD感染症、CMV、そしてノロウイルスである。1)これらに関しては、血中の抗原や抗体価、あるいは便培養を用いて菌やウイルスの同定をし、診断を行う。
そして他の原因として挙げられるのが、免疫抑制剤のミコフェノール酸(MPA)である。以下、MPAに関して参照した論文である。2)
2000年から2010年の間にチューリッヒ大学病院で移植された成人腎移植レシピエントを2014年7月までの慢性下痢の発生について追跡調査した。MPA治療期間中に、抽出した726人のうち46人が下痢の症状を訴えた。MPAの減量により22.7%に回復が見られ、MPAを用いないレジメンへの変更により100%の回復が見られた。
また、この研究では、MPAに関連した慢性の下痢は移植およびMPA治療の開始後最初の数ヶ月以内で特に高くなるわけではなかったということ、下痢発症には4月と10月/11月といった季節によるピークが存在することがわかった。
上記の結果はこの免疫抑制剤についての一傾向を表しているのかもしれないが、今回考えたかった鑑別診断に使えるものでは到底ないと考えられる。
免疫抑制のため使用しているMPAを変更することで下痢が改善されるのであれば、診断的治療となるのではないかと考えたが、MPAを変更あるいは減量することで移植後の拒絶反応を引き起こすリスクがどれほど上がるかがわからないので、他の文献を参照する必要があると考えられる。
1) Michael Angarone, David R. Snydman (2019)
Diagnosis and management of diarrhea in solid-organ transplant recipients: Guidelines from the American society of transplantation infectious diseases community of practice
Clinical Transplantation e13550
2) S.von Moos, P.E.Cippa, R.P.Wuthrich, T.F.Mueller (2016)
Intestinal infection at onset of mycophenolic acid-associated chronic diarrhea in kidney transplant recipients Transplant Infectious Disease 18, 721-729
3)ハリソン内科学 第5版
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