ペニシリナーゼ陰性MSSAによる菌血症においてアンピシリンとセファゾリンで効果に差があるか
序論
わが国においてはメチシリン感受性黄色ブドウ球菌(MSSA)における菌血症に対する第一選択はセファゾリンである。ペニシリナーゼ陽性MSSAに対してはセファゾリンを用いるのが適当であるが、ペニシリナーゼ陰性MSSAに対してはアンピシリンとセファゾリンのどちらを選択するべきであるのかを考えるにあたり、両者の臨床効果を比較した。
本論
Nissen JLによるとMSSA菌血症の治療としてペニシリン、ジクロキサシリンおよびセフロキシムを比較した588人の研究においてセフロキシムによる治療は、ペニシリンと比較して30日間の死亡リスクが高かった(HR 2.54、95%CI 1.49-4.32)。傾向スコアを一致させた症例対照研究では、30日間の死亡リスクはペニシリン治療(20%)に対してセフロキシム治療(39%)、P = 0.037。ジクロキサシリン治療(10%)に対するセフロキシム治療(38%)、P = 0.004。したがってセフロキシムによるMSSA菌血症の治療は、ペニシリンまたはジクロキサシリンと比較して死亡率が有意に高かった。
Bai ADらによると2007年から2010年の間黄色ブドウ球菌菌血症の患者の研究において、患者を傾向スコアによって一致した2つのグループ間に分けセファゾリンとクロキサシリンの死亡率を比較した。90日で、96人(27%)の患者が死亡し、セファゾリン群で21/105(20%)、クロキサシリン群で75/249(30%)。傾向スコアがマッチしたグループでは、90日間の死亡率に対して、セファゾリンのHRは0.58(95%CI 0.31-1.08、P = 0.0846)であった。MSSA菌血症の治療において、死亡率に関してセファゾリンとクロキサシリンの間に有意な臨床的差異はなかった。
結論
MSSA菌血症の治療として第二世代セフェムであるセフロキシムと比較してペニシリンを用いた場合のほうが患者の死亡率は低かった。また第一世代セフェムであるセファゾリンは米国においてMSSA菌血症の治療第一選択である抗ブドウ球菌性ペニシリン(クロキサシリン)と比較して患者の死亡率に有意な差はなかった。MSSA菌血症の治療としてアンピシリンの有効性や、セファゾリンの有効性検討した大規模な前向き臨床研究はなく両者を厳密に比較することは出来なかった。しかし二世代セフェムと比較してペニシリンのほうが効果が大きいこと、セファゾリンと抗ブドウ球菌性ペニシリンの効果はほとんどないことを考慮すると、セファゾリンと比較してアンピシリンの効果が小さいという可能性は低く、同程度以上の効果が期待できる可能性が少なからずあると推測する。よってペニシリナーゼ陰性MSSAに対してセファゾリンを用いることは適当であるが、よりスペクトラム小さいアンピシリンを選択することを検討すべきである。
(参考文献)
日本感染症学会ガイドライン2017
1 Clinical approach to Staphylococcus aureus bacteremia in adults. Vance G
2 Effectiveness of penicillin, dicloxacillin and cefuroxime for penicillin-susceptible Staphylococcus 3 aureus bacteraemia: a retrospective, propensity-score-adjusted case-control and cohort analysis. Nissen JL.2013
4 Comparative effectiveness of cefazolin versus cloxacillin as definitive antibiotic therapy for MSSA bacteraemia: results from a large multicentre cohort study. Bai AD.2015
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