人工妊娠中絶患者における感染症の起因菌や感染経路
〜単独の菌によるものか複数の菌によるものか〜
人工妊娠中絶患者においてどのような起因菌によって感染症が起こりやすいのかを調べることで治療の選択に役立つと考え、今回のテーマを設定した。
人工妊娠中絶では器具による経膣的な子宮内容除去術と、薬物による誘導(子宮収縮の促進)がある。外科的な中絶手術では、術後に子宮頸管が拡張している場合に、通常時よりも感染症にかかりやすくなる。クラミジア・トラコマシスの有病患者において中絶が行われてから最初の2週間以内に治療を開始したクラミジア陽性患者が14.1%入院したのに対し、陰性患者では5.7%であった(p<0.02)。また別の論文でもクラミジア未治療グループと、中絶前または同時にクラミジアの治療を行なったグループの比較で術後の急性骨盤内炎症性疾患の発生が前者で優位に高いことが分かった。クラミジア感染症の合併症に対する入院の推定費用は、ルーチーンのクラミジアスクリーニングプログラムおよび予防的治療を提供する費用の2倍以上である。このことから妊娠中絶を申請する女性は妊娠中絶の前または遅くとも妊娠中絶と同時にクラミジアによる感染症について検査及び治療されるべきだと考えられる。
また中絶を行うも、胎盤遺残によって感染が引き起こされる場合がある。この患者に対して胎盤用手剥離実施前のルーチーンな抗菌薬投与に利益があるのかという問いが立てられたがこの子宮内膜炎予防を目的とした予防的抗菌薬投与の効果について検証したランダム化比較試験はなかった。
今回、人工妊娠中絶患者における特有の起因菌などは見つからなかった。また今回担当したケースのような妊娠中絶後に敗血症を起こした患者における原因として単独の菌によるものなのか複数の菌によるものなのかを判断する参考となる論文は見つからなかった。中絶手術を行うことにより、子宮頸管が拡張することで感染症を引き起こすリスクは高くなるため、クラミジアを始めとする生殖器感染症を引き起こす原因となる菌の、中絶前の検診と治療が重要であると考えられる。
参考文献
“Induced abortion: Chlamydia trachomatis and postabortal complications”Finn Egil Skjeldestad First published: January 1988
“Pelvic infection after elective abortion associated with Chlamydia trachomatis.”Moller BR Obstetrics and Gynecology [01 Feb 1982, 59(2):210-213]
“Health gains from screening for infection of the lower genital tract in women attending for termination of pregnancy” A.L. Blackwell MB 24 July 1993, Pages 206-210
ハリソン内科学第5版
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