YSQ「主要な抗MRSA薬はどのくらい使い続けると耐性化するのか」
今回担当した患者は1年以上にわたりMRSAが検出されており、抗MRSA薬を使い続けるとさらなる耐性菌を生み出してしまうのではないかと考え、それを防ぐために耐性化するリスクが有意にあがるのはどのくらいの期間なのかを調べることにした。
はじめに、主要な抗MRSA薬とはMRSA感染症の治療ガイドライン2017に抗MRSA薬として記載されているもののうち、推奨度Aのもの(バンコマイシン、リネゾリド、ダプトマイシン)とする。各薬剤の特徴は以下である。
【バンコマイシン】グリコペプチド系の標準的な抗MRSA薬であり、基本は細胞壁合成の阻害であるが、RNAや細胞膜の合成阻害も行い、複数のステップに作用することが耐性の出現しにくさに関与していると考えられている。
MIC値>4μg/mLでVISA、MIC値>16μg/mLでVRSAと定義されるが、両者の耐性獲得のメカニズムは異なり、VISAは細胞壁合成や代謝経路の変化によって細胞壁が著名に厚くなり耐性を獲得するのに対し、VRSAはVREからvanAを獲得して耐性化する。
【リネゾリド】オキサゾリジノン系の抗菌薬であり、有機物の合成による抗菌薬であるために交差耐性は生じにくいと考えられているが、比較的新しい抗菌薬ながらすでにMRSAやVREに耐性の報告が出ている。耐性を報告する多くの例では異物の存在下で長期間使用した症例である。
【ダプトマイシン】リボペプチド系抗菌薬であり複数の作用部位・メカニズムをもつと考えられている。これらの作用機序は他の抗菌薬になかったものであり、種々の耐性菌に対して殺菌的に働くとともに、耐性化する確率が非常に低いとされる。しかし長期間の使用により耐性化したMRSAの報告がある。
バンコマイシンの耐性化に対する臨床的な論文データは少なく、期間とともに示しているデータは見つからなかった。
リネゾリドの耐性化報告例では投与開始1ヶ月後に耐性化が報告されている。
ダプトマイシンの耐性化報告例では2年間にわたりダプトマイシンの投与(28週間)を受けており、長期にわたる経過が耐性獲得の危険因子であったと考えられている。
以上より抗MRSA薬は基本的に耐性化のリスクは低いがリネゾリドの投与では比較的早期に耐性化が出現しているためリネゾリドの乱用、1ヶ月以上の長期使用は避けるべきであると結論づけるが、抗MRSA薬の長期利用の臨床データをあまり見つける事が出来なかったため有意にリスクが上がる期間は不明であり、より多くの研究が必要であると感じた。
参考文献 ・MRSA感染症の治療ガイドライン2017改訂版
・レジデントのための感染症診療マニュアル第3版
・Tsiodras S et al: LInezolid resistance in a clinical isolate of Staphylococcus aureus Lancet 2001;358: 207-208
・Skiest DJ: Treatment failure from resistance of Staphylococcus aureus to daptomycin. J Clin Microbiol 2006;44: 655-656
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