5年次BSL感染症内科レポート
ペニシリン感受性のあるMSSAによるSSI患者に対してセファゾリン投与を行った群とビクシリン投与を行った群とで治療効果に違いはあるか?
序論
私の担当患者は胸部正中切開後に血液培養検査でMSSAが検出され胸骨骨髄炎を合併するSSIと診断された。患者はセファゾリンを投与されていたが、ペニシリン感受性があることから数日前よりビクシリン(アンピシリンナトリウム・クロキサシリンナトリウム水和物)投与に変更された。私は抗菌薬を変更する必要性について疑問に思ったため上記のテーマを設定した。ビクシリンとセファゾリンの治療効果を比較した文献を見つけられなかったため、本レポートでは他のペニシリン系抗菌薬とセファゾリンとの治療効果を比較した論文を元に考察を行う。
本論
半合成ペニシリン系抗菌薬とセファゾリンとで骨髄炎の治療効果を比較した論文は見つけられなかったが、菌血症治療に関するナフシリン、オキサシリンとの比較文献では治療効果に有意差は認められなかった。
PaulらがMSSA菌血症の成人患者498人に対して、さまざまなβ-ラクタム系抗菌薬で治療を行い、抗菌薬投与開始から9日後の死亡率について単変量および多変量解析を行ったところ、9日後の死亡率はクロキサシリンで32.4%(91人/281人)、セファゾリンで40.3%(29人/72人)、調整オッズ比0.91(95%CI 0.47-1.77)であり、セファゾリンによるMSSA菌血症の治療は、クロキサシリンによる治療と有意差はなかった。
有害事象については、MSSA菌血症治療におけるセファゾリンとペニシリン系抗菌薬との安全性を比較した別のメタアナリシス論文で、 アナフィラキシーや血液毒性の発生率に有意差はなかったが、腎障害や肝障害の発生率はセファゾリン投与群のほうが低く、有害作用による治療の中断が少ないと報告されている。
結論
セファゾリンとペニシリン系薬剤との間で治療効果に有意差は示されておらず、有害事象の発生率の観点からも抗菌薬をビクシリンに変更するエビデンスは乏しいと思われるが、実際に治療効果を比較した論文は無く、今後検討が必要である。
参考文献
- Paul M,et al. Are all beta-lactams similarly effective in the treatment of methicillin-sensitive Staphylococcus aureus bacteraemia? Clin Microbiol Infect. 2011 Oct;17(10):1581-6. doi: 10.1111/j.1469-0691.2010.03425.x. Epub 2010 Dec 14.
- Shi C,et al. Efficacy and safety of cefazolin versus antistaphylococcal penicillins for the treatment of methicillin-susceptible Staphylococcus aureus bacteremia: a systematic review and meta-analysis. BMC Infect Dis. 2018 Oct 11;18(1):508. doi: 10.1186/s12879-018-3418-9.
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