緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)はブドウ糖非醗酵のグラム陰性桿菌であり、栄養要求性が高くないため、土壌、植物、野菜、水道水、調理台など様々な湿潤環境に生育する。いたるところに存在している菌であり、多くの場合、緑農菌感染は宿主の免疫力の低下や粘膜障害、生理学的障害、抗菌薬による正常細菌叢の抑制と同時に起こる。治療には第3世代セフェム系のセフタジジム、第4世代セフェム系、広域ペニシリンのタゾバクタム / ピペラシリン、ルバペネム系、フルオロキノロン系、アミノグリコシド系などの抗菌薬を用いる。本菌はもともと広く抗菌薬に対して耐性を示すことから、その抗菌薬療法はしばしば困難となり、カルバペネム薬、第三・第四世代セフェム系薬、ニューキノロン薬、アミノグリコシド薬すべてに耐性を示す、多剤耐性緑膿菌(MDRP)が出現し問題となっている。
担当症例においても、緑膿菌感染に対しシプロキサン、メロペネム、セフタジジム、アミカシン、セフェピムなどによって治療されてきたが、コントロールが難しく感染が繰り返されている。そこで緑膿菌治療において、 薬剤によって耐性化率はどれだけ異なるのかを検討した。
Helio S. Sader et al.らは2012年から2015年にかけて、79の米国医療センターから収集された7,452の緑膿菌分離株の抗菌剤感受性を評価した。その結果、約90%の感受性率を有する化合物は、コリスチン(感受性99.4%)、セフタジジム - アビバクタム(感受性97.0%)、およびアミカシン(感受性97.0/93.0%[それぞれCLSI/EUCAST])であった。また、セフタジジムにアビバクタムを併用することで感受性のある緑膿菌分離株の割合は84.3%から97.0%に増加していた。 Giang M.Tran et al.らは2014年11月から2015年9月の間に、ベトナムのホーチミン市にある大型病院でICUに入院した人工呼吸器関連肺炎患者220人から気管支鏡検査法によって採取したサンプルに対し、各抗菌剤感受性を検出し、耐性のパターンを定義しようと試みた。患者から分離された緑膿菌の分離株の中で、薬剤耐性はメロペネム(86%)、イミペネム(79%)、ゲンタマイシン(80%)、シプロフロキサシン(80%)、およびレボフロキサシン(76%)でみられた。またコリスチンに対しても3.4%に耐性があることがわかった。 以上より比較的カルバペネム系の抗菌薬は薬剤耐性がつきやすく、コリスチンはつきにくいことが示唆された。また効果的に薬剤を併用することで耐性を減らすことができることも分かった。 一方、Katsutoshi et al.らは2003 年 4 月から 2010 年 3 月に臨床分離された緑膿菌 6587 株について,抗菌薬の使用量と抗菌薬感受性および交差耐性の関係を調査したところ、アミカシン、イミペネム/シラスタチン、メロペネム以外の抗菌薬は,AUD増加に伴い耐性株が有意に増加していた。つまり、抗菌薬の使用量が増加すればその抗菌薬に耐性の菌が増加し、抗菌薬使用の変化と耐性率の変化は相関していることが伺える。 以上より各国、各施設、各病棟でかなり緑膿菌の耐性率(薬剤感受性率)が違うので一律に決め難いと考えた。どれを第一選択にするかは各施設のアンチバイオグラムの把握が必須であると考える。抗菌薬の使用量は, 宿主側と細菌側の因子による影響を受けて変動するため、各患者に対し感受性を調べ、何を投与するか決める必要があると考えた。
参考文献
1) Helio S. Sader, Michael D. Huband, Mariana Castanheira, Robert K. Flamm: Pseudomonas aeruginosa Antimicrobial Susceptibility Results from Four Years (2012 to 2015) of the International Network for Optimal Resistance Monitoring Program in the United States: March 2017 Volume 61 Issue 3 e02252-16 Antimicrobial Agents and Chemotherapy aac.asm.org 1
2) Giang M. Tran1*, Thao P. Ho-Le2, Duc T. Ha3, Chau H. Tran-Nguyen1, Tuyet S. M. Nguyen1, Thao T. N. Pham4,5, Tuyet A. Nguyen1, Dung A. Nguyen1, Hoa Q. Hoang1, Ngoc V. Tran4,5 and Tuan V. Nguyen2,6,7: Patterns of antimicrobial resistance in intensive care unit patients: a study in Vietnam: Tran et al. BMC Infectious Diseases (2017) 17:429 DOI 10.1186/s12879-017-2529-z
3) Katsutoshi SATO1,5), Ikuo YAMAGUCHI2,5), Keiko KINOSHITA2,5), Kazuyoshi TAKAHASHI3,5), Kayoko ITO3,5) and Keizo YAMAMOTO4,5)
:Change in Antimicrobial Susceptibility of Pseudomonas aeruginosa: 環境感染誌 Vol. 26 no. 6, 2011
4)桑名司,木下浩作: 耐性菌と戦うための strategy: J. Nihon Univ. Med. Ass., 2017; 76 (2): 55–58
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