術後髄膜炎による髄液所見と、感染を起こしていない手術後の髄液所見はどのように異なるか
序論
細菌性髄膜炎が疑われる場合、禁忌でない限り腰椎穿刺による髄液検査を速やかに行うことが推奨されている[1]。細菌性髄膜炎の典型的な髄液所見は、多核球白血球増加・グルコース濃度の低下・蛋白濃度の上昇・髄液初圧の上昇である[2]。しかしながら、手術の侵襲によりこれらの兆候が隠されてしまうことがあるため、術後髄膜炎の診断は困難となることがある。本症例でも、術後の発熱に対して髄液検査を施行するも、検査結果の異常が手術の侵襲によるものか、感染によるものか判別がつかなかったという経緯があった。感染の有無による手術後の髄液所見の差異を明らかにすることによって、診断精度を高めることができるのではないかと考え、本テーマを設定した。
本論
髄液中の乳酸は通常は大部分が脳にて糖の嫌気性代謝によって産生されており、従って、一般的に、髄液中の乳酸値高値は髄液中のグルコース濃度低値に随伴することが多い[3]。
Pedro Grilleらは、神経学的手術の後にICUに入院し、細菌性髄膜炎が臨床的に疑われたため腰椎穿刺による髄液検査を施行された患者を対象に研究[4]を行った。事前に定めた基準に則り、患者群を(1)細菌性髄膜炎群 (2)細菌性髄膜炎疑い群 (3)細菌性髄膜炎ではない群、に分け、髄液中乳酸値を群間で比較した。その結果、(1)(2)群と(3)群の比較では、乳酸値は前者で有意に高値を示した。髄液中乳酸値のカットオフ値を5.2mMに定めたところ、(1)(2)群を検出する感度は92%、特異度は100%となった。また、カットオフ値を5.9mMに定めたところ、髄液培養にて細菌の存在が確認された群を検出する感度は87%、特異度は94%となった。
結び
術後髄膜炎による髄液所見と術後非感染の髄液所見は、少なくとも乳酸値が前者で有意に高値であることが判明し、検査項目としての有用性を示唆した。しかし、従来の指標となっていた項目がどのように異なるかはわからなかった。
参考文献
[1] 日本神経学会 細菌性髄膜炎診療ガイドライン2014 p.50-51
[2] ハリソン内科学第5版 p.911-917
[3] Pedro Grille, et al. Value of cerebrospinal fluid lactate for the diagnosis of bacterial meningitis in postoperative neurosurgical patients. Neurocirugía Volume 23, Issue 4, July–August 2012, Pages 131-135
[4] Sumanth Kumar, wt al. Prognostic value of cerebrospinal fluid lactate in meningitis in postoperative neurosurgical patients. Neurol India. 2018 May-Jun;66(3):722-725
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