注意! これは神戸大学病院医学部生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員がスーパーバイズしています。そして本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。
学生に与えられたレポート作成時間は総計5時間。月曜日に「質問形式」のテーマを考え、岩田が審査し、そのテーマが妥当と判断された時点からレポート作成スタート、5時間以内に作成できなければ未完成、完成して掲載レベルであればブログに掲載としています。お尻に岩田が「寸評」を加えています。
あくまでも学生レポートという目的のために作ったものですから、レポートの内容を臨床現場で「そのまま」応用するのは厳に慎んでください。
ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
ESBL産生菌の感染症に対する治療としてピペラシリン-タゾバクタムを
使用するのはいけないことなのか?
ESBL(基質特異性拡張型βラクタマーゼ)産生菌の感染症に対する治療薬としてはカルバペネムが第一選択1)とされており、βラクタム/βラクタム阻害薬(BLBLI)であるピペラシリン-タゾバクタムは使用を推奨されていない。ESBL産生菌には、ペニシリン系抗菌薬であるピペラシリンとβラクタマーゼ阻害薬であるタゾバクタムの合剤は作用機序を考慮すると有効と考えられ、この薬剤がESBL産性菌に対してどれほどの効果があるのかを調べた。
2011年にJesus Rodrigues-Banoらが過去のESBL産生大腸菌による菌血症患者を対象とした6つの前向きコホート研究の事後解析を行った。2) 287例のESBL産生大腸菌の菌血症の症例において経験的治療を行ったコホート(初回投与として血液培養採取後の24時間以内にBLBLIまたはカルバペネムを経験的に開始し、その分離株が初回の抗菌薬治療に感受性を示した患者)(103例)と確定的治療を行ったコホート(単剤の抗菌薬で治療期間の50%以上でBLBLIまたはカルバペネムを用いた患者) (174例)に分類し、感受性を有するBLBLI(アモキシシリン-クラブラン酸[AMC]およびピペラシリン-タゾバクタム[PTZ])またはカルバペネムで治療した患者の死亡率を比較した。今回の試験の患者は(1)年齢>17歳、(2)ESBL産生大腸菌の単一菌の菌血症である、(3)BLBLIまたはカルバペネムによる48時間以上の治療を受けているという基準を満たしている。経験的治療コホートでは、死亡率はBLBLI群対カルバペネム群で7日死亡率2.8%対9.7%、14日死亡率9.7%対16.1%、30日死亡率9.7%対19.4%となった。確定的治療コホートでは、7日死亡率1.9%対4.2%、14日死亡率5.6%対11.7%、30日死亡率9.3%対16.7%となった。これら死亡率は両群間に有意差を認めなかった。感染フォーカスが胆道系感染と尿路感染以外である場合、Pittスコアが悪い場合、重度の敗血症または敗血症ショックにおいては粗死亡率が高く、これらを両群間で調整した上で比較した死亡率にも有意差を認めなかった。なおAMCとPTZによる経験的治療における30日死亡率を比較したところ、AMCにて7.9%、PTZにて8.6%という結果となり、AMCとPTZにおける治療効果に有意差は認めなかった。
これらの結果から、感受性を有するBLBLIはカルバペネムに対して治療効果において劣るという結果は得られなかった。ESBL産生菌の感染症に対して第一選択とされているのはカルバペネムであるが、感受性を有するピペラシリン-タゾバクタムはESBL産生菌の感染症治療においてカルバペネムの適切な代替物として使用できる可能性が示唆される。
出典
1)感染症診療マニュアル 第3版 青木眞 125頁
2)Jesús Rodríguez-Baño María Dolores Navarro Pilar Retamar Encarnación PicónÁlvaro Pascual
Clinical Infectious Diseases, Volume 54, Issue 2, 15 January 2012, Pages 167–174
寸評:タイトルはむっちゃよかったのに、そこに攻め込めませんでした。まあ、学生レヴェルだと仕方ないとも思いますが。
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