注意! これは神戸大学病院医学部生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員がスーパーバイズしています。そして本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。
学生に与えられたレポート作成時間は総計5時間。月曜日に「質問形式」のテーマを考え、岩田が審査し、そのテーマが妥当と判断された時点からレポート作成スタート、5時間以内に作成できなければ未完成、完成して掲載レベルであればブログに掲載としています。お尻に岩田が「寸評」を加えています。
あくまでも学生レポートという目的のために作ったものですから、レポートの内容を臨床現場で「そのまま」応用するのは厳に慎んでください。
ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
急性胆管炎に対する抗菌薬投与において、嫌気性菌をカバーする必要性はあるのか。
嫌気性菌の占める割合として、急性胆道炎症例の胆汁分離菌においては4-20%、胆道感染による菌血症の分離菌においては市中感染では1%、医療関連性感染では2%とされており、高い頻度とは言えない。しかし、嫌気性菌には分離や同定が難しい菌種、分離培養に時間を要する菌種が多く、初期治療や培養で未検出であった場合も嫌気性菌も含めたエンピリカルな治療が必要となるのか疑問に思った。そこで、急性胆管炎の抗菌薬投与において嫌気性菌をカバーする必要があるのか調べた。
急性胆管炎・胆嚢炎診療ガイドライン2013では、胆管空腸吻合の既往がある患者には嫌気性菌のカバーを提案するとなっているが、その他については言及されていない(1)。1980年~1990年代の急性胆管炎に対する抗菌薬の無作為化比較試験をいくつか見つけることはできたが、現在使用されていない抗菌薬や、セフェム系・ペニシリン系を使用している試験が多く、嫌気性菌のカバーの有無による治療成績の違いに言及している無作為化比較試験を見つけることができなかった。また、2005年以降は嫌気性菌への言及の有無に関わらず、急性胆管炎の抗菌薬療法に関する無作為化比較試験が行われていない。
しかし、嫌気性菌に関して以下のような報告がある。
・in vitroにおいてB.fragilisなどの嫌気性菌の存在により、通性嫌気性菌であるE.coli、Proteus mirabilisなどに対する白血球の貪食作用および白血球内殺菌作用が低下する(2)。
・マウスに対しB.fragilisを単独投与した場合、E.coliやS.pneumoniaeとともに投与した場合、両者ともにマウスの腹腔内マクロファージの貪食作用が抑制された。in vivoにおいてもB.fragilisによるマクロファージの貪食作用の抑制が、好気性菌との混合感染における相乗的病原性に関与していることを示唆する(3)。
・急性胆管炎(以下AC)患者33人(1976-1980年)の胆汁において、18.2%が好気性菌1種のみ、27.3%が好気性菌2種以上、54.5%が好気性菌嫌気性菌混合分離であった。また、33人中11人は急性化膿性胆管炎および急性閉塞性化膿性胆管炎(以下ASC,AOSC)への増悪が見られ、11例中8例(73%)が好気性菌嫌気性菌混合分離であった。さらに、この11例中好気性菌のみ分離された3例では致死率33%、混合分離された8例では致死率50%であった。その他、胆嚢胆石症(有菌)20例、総胆管結石症・肝内胆管結石症(有菌)47例も含めた全100例で検討すると、重症化へむかう(胆嚢胆石→総胆管および肝内胆管結石→AC→ASC,AOSC)につれて好気性菌嫌気性菌混合検出頻度が高くなり、胆道感染症の重篤化因子の一つとして、好気性菌との混合感染としての嫌気性菌の重要性が推察される(4)。
・急性閉塞性化膿性胆管炎患者23人(1972-1979年、男12女11、63-89歳、平均74.9歳)の胆汁において、34.8%が好気性菌のみ、65.2%が好気性菌嫌気性菌混合分離であった(5)。
以上のことから嫌気性菌の存在は無視できず、特に重症例では初期治療から嫌気性菌を十分にカバーしていく必要があるのではないかと考える。ただし、今回使用した文献は古い年代のものであること、症例数が少ないこと、患者群の特徴(性別、年齢、既往歴など)が述べられていないこと等に注意しなければならない。
<参考文献>
(1) -TG13新基準掲載-急性胆管炎・胆嚢炎診療ガイドライン2013
(2) H.R.Ingham, Penelope R.Sisson, Danka Tharagonnet, J.B.Selkon, A.A.Codd(1977)“Inhibiton of Phagocytosis In Vitro by Obligate Anaerobes” The Lancet,Decenber17,1977, p.1252-1254
(3) Arne C.Rodloff, Jeanne Becker, D.KayBlanchard, Thomas W.Klein, Helmut Hahn,and Herman Friedman(1986)“Inhibition of Macrophage Phagocytosis by Bacteroides fragilis In Vivo and In Vitro”INTECTION AND IMMUNTY;52(2),p.488-492
(4) 花井拓美,由良二郎,品川長夫 「急性化膿性胆管炎についての細菌学的考察-特に嫌気性菌との関係について-」(『日本消化器外科学会雑誌』第15巻第5号、1982年、774-780ページ)
(5) Kaoru Shimada,Toshio Noro,Takashi Inamatsu,Kyoko Urayama,and Keiko Adachi (1981)“Bacteriology of Acute Obstructive Suppurative Cholangitis of the Aged” Journal of Clinical Microbiology,Nov.1981;14(5),p.522-526
寸評:わりとよくある議論ですが、それゆえに答えは見つかりにくい。リスクがそこにある、とそれを排除すればよいことがある、は同義ではないのですね。
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