注意! これは神戸大学病院医学部生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員がスーパーバイズしています。そして本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。
学生に与えられたレポート作成時間は総計5時間。月曜日に「質問形式」のテーマを考え、岩田が審査し、そのテーマが妥当と判断された時点からレポート作成スタート、5時間以内に作成できなければ未完成、完成して掲載レベルであればブログに掲載としています。お尻に岩田が「寸評」を加えています。
あくまでも学生レポートという目的のために作ったものですから、レポートの内容を臨床現場で「そのまま」応用するのは厳に慎んでください。
ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
「尿路感染症(UTI)が移植腎の生着率に与える影響はあるのか」
臓器移植後は免疫抑制状態におくため、感染症にかかりやすくなることは教科書的にもよく知られている。しかし、感染が移植臓器に影響を与えるのかはあまり書かれておらず、調べることとした。
2000年1月から2005年12月までにパリのTenon Hospitalで172人の患者に行われた177例の腎移植を対象とした後ろ向き研究[1]では、133例(75.1%)で少なくとも1回UTI発症があり、そのうち25例で急性腎盂腎炎(APN)発症があった。UTIが腎機能に与える影響を評価したところ、腎移植から 1 年後の平均血清クレアチニン(Cr)値は、APNを発症した患者群(group3 Cr=2.01mg/dL)において、UTIを発症しなかった患者群(group1 Cr=1.59mg/dL)およびAPNのないUTIを発症した患者群(group2 Cr=1.60mg/dL)よりも有意に高く、腎移植から 1 年後のクレアチニンクリアランス(CrCl)はgroup3(39.5±15.5mL/分/1.73m2)において、group1(56.4±20.5mL/分/1.73m2)およびgroup2(54.6±21.7mL/分/1.73m2)よりも有意に低くかった。また多変量解析で、APN が腎機能低下に関連した独立した危険因子(P値0.0034)であることが示された。また移植後30ヵ月の移植腎生存率はgroup1および2で85.1%、group3で76.5%であり、Kaplan-Meier法による分析では、APNの単回/反復発生が移植腎生存に有意に影響しないことが示された(P値0.4796)。
2002年1月から2004年12月までに腎移植を受けた189人の患者を36ヶ月間追跡調査した前向き研究[2]では、96人の患者で合わせて298件の無症候性細菌尿症があった。無症候性細菌尿症が腎機能に与える影響を血清Cr、CrCl、尿蛋白尿で評価したところ、その有無による有意差はみられなかった(P値>0.05)。拒絶反応は、多変量解析を行うと、5回より多い無症候性細菌尿症が拒絶反応に関連する独立した因子(オッズ比3.46、95%信頼区間1.07-11.2、P値0.037)であることが示された。移植腎生存に関しては、移植腎喪失が1件のみで判断できなかった。
1996年1月1日から2000年7月31日までにアメリカ腎臓データベースシステム(USRDS)に登録された28942名の患者に行われた初回腎移植を対象とした後ろ向き研究[3]では、移植後最初の6ヶ月間でUTIの累積発生率は17%、3年間で女性60%、男性47%であった。性別、合併症、または外来か入院かなどの別の要素を除いた結果、移植後6ヶ月以降に発生したUTIによる移植腎喪失の補正ハザード比(AHR)は1.85(95%信頼区間1.29-2.64)であった。
以上、UTIによる移植腎機能低下は共通していたものの、移植腎生着率への影響ははっきりしなかった。しかし今回の引用論文は調査期間などが異なり一概に比較はできない。また注目点がAPN中心か、APNを含むUTI全体か、といった点でも違いが出たのかもしれない。これを踏まえ、腎移植後の患者にはまずUTIになら無いよう感染対策をすることや、もしなったら腎機能の慎重なモニタリングをする必要があると考える。
【参考】
- Pellé at el. Acute Pyelonephritis Represents a Risk Factor Impairing Long-Term Kidney Graft Function. American Journal of Transplantation2007; 7: 899–907
- Fiorante at el. Systematic screening and treatment of asymptomatic bacteriuria in renal transplant recipients. Kidney International (2010) 78, 774–781
- C. Abbott at el. Late Urinary Tract Infection After Renal Transplantation in the United States. American Journal of Kidney Diseases, Vol 44, No 2 (August), 2004: pp 353-362
寸評:素晴らしいテーマ設定です。逆はみんな考えるんですけどね。
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