注意! これは神戸大学病院医学部生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員がスーパーバイズしています。そして本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。
学生に与えられたレポート作成時間は総計5時間。月曜日に「質問形式」のテーマを考え、岩田が審査し、そのテーマが妥当と判断された時点からレポート作成スタート、5時間以内に作成できなければ未完成、完成して掲載レベルであればブログに掲載としています。お尻に岩田が「寸評」を加えています。
あくまでも学生レポートという目的のために作ったものですから、レポートの内容を臨床現場で「そのまま」応用するのは厳に慎んでください。
ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
「神経因性膀胱を有する患者における再発性UTIのリスク因子及び予防法にはどのようなものがあるか?」
尿路感染症(UTI)はしばしば神経因性膀胱などの排尿障害を基盤に起こる。こういった類の尿路感染症の再発を防ぐためどのような対応をすればよいのか疑問に思い、再発のリスク因子と予防法を調べることにした。しかし、排尿障害を有する患者に限定した文献は見当たらなかった。そこで、BSL担当患者さんの特徴に準じ、成人女性、中でも閉経後の女性における再発性UTIのリスク因子や予防法に関する研究を中心に調べた。
まず、リスク因子について述べる。Raulらは閉経後の女性を対象に、再発性UTIを有する症例患者149人と有さない対照患者53人による症例対照研究を行っている1)。結果、尿失禁(41%9%, p<0.001)、膀胱瘤の存在(19%vs0%, p<0.001)、残尿(28%vs2%, p<0.001)、尿流障害(45%vs23%, p=0.04)、泌尿器・生殖器手術歴(27%vs13%, p=0.04)であった。中でも尿失禁が再発性UTIと最も強く関連していることが多変量解析によって示された(OR 5.79)。
以上をふまえ、泌尿器の機能的あるいは構造的異常がUTIの重要な危険因子であると結論付けた。特に尿失禁は高齢女性に高頻度で起こり、さらには神経因性膀胱を有する患者ではそのリスクは増大すると予想される。ほかに尿失禁の危険因子として肥満や飲酒・喫煙などがあり、これらもUTIの遠因たり得ると考えた。
次に予防法についてだが、アプローチとしてまず考えられるのが予防的抗生物質投与である。Walterらは、再発性UTIのエピソードを有する非妊娠女性を対象にトリメトプリム-スルファメトキサゾール、ニトロフライトイン、トリメトプリムのプラセボ対照試験を行っている2)。結果、プラセボ群の感染率が2.8/yr.なのに対し、抗菌治療群は0~0.15/yr.であった(p<0.001)。また、Nicolleらは再発性UTIのエピソードを有する成人女性15人ずつの対象群を用いてノルフロキサシンのプラセボ対照試験を行い、結果としてプラセボ群の8人がUTIを再発したのに対し、ノルフロキサシン被験者は1人も感染を発症しなかった3)。
しかし、長期にわたる抗生剤使用は耐性菌の出現を招きうるため、抗生物質を用いない予防法も考慮する必要がある。Raulらによる閉経後の女性を対象とした膣内エストリオールのプラセボ対照試験4)では、エストリオール投与群の再発率はプラセボ群と比較し有意に低下した(患者1人当たりのエピソード数0.5対5.9、P <0.001)。これは膣内細菌叢を整えることによる効果であると考えられる。ほかの非抗生剤的予防法として経口免疫賦活薬OM-89投与、クランベリージュースの摂取や鍼治療などが有用であるというデータも報告されている5)。
以上より、再発性UTIの予防にはトリメトプリム-スルファメトキサゾール等の抗菌薬が有効ではあるものの、耐性菌の出現などのリスクを考慮して長期投与は慎重を期さなければならず、状況に応じて抗菌薬を用いないアプローチも必要となる。また、リスク因子への対処という観点から、肥満の改善や減酒・禁煙、すなわち生活習慣の見直しもひとつの予防策といえる。
(参考文献)
1)Raz R et al. Recurrent Urinary Tract Infections in Postmenopausal Women. Clin Infect Dis 2000;30:152-6
2)Walter E et al. Antimicrobial Prophylaxis of Recurrent Urinary Tract Infections: A Double-Blind, Placebo-Controlled Trial. Ann Intern Med. 1980;92(6):770-5.
3)Nicolle LE et al. Prospective, Randomized, Placebo-Controlled Trial of Norfloxacin for the Prophylaxis of Recurrent Urinary Tract Infection in Women. Antimicrobial Agents Chemotherapy 1989;33 : 1032-5
4)Raz R et al. A Controlled Trial of Intravaginal Estriol in Postmenopausal Women with Recurrent Urinary Tract Infections. N Engl J Med. 1993 Sep 9;329(11):753-6.
5)Beerepoot MA et al. Nonantibiotic Prophylaxis for Recurrent Urinary Tract Infections: A Systematic Review and Meta-Analysis of Randomized Controlled Trials. J Urol 2013;190 : 1981-9
寸評:なかなかよかったですが、クランベリーはすでにエビデンス不十分で推奨度は低くなっています。最新の文献をあたるのが大事な所以です。つまり、最新の文献を探すスキルが必要なのです。
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