注意! これは神戸大学病院医学部生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員がスーパーバイズしています。そして本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。
学生に与えられたレポート作成時間は総計5時間。月曜日に「質問形式」のテーマを考え、岩田が審査し、そのテーマが妥当と判断された時点からレポート作成スタート、5時間以内に作成できなければ未完成、完成して掲載レベルであればブログに掲載としています。お尻に岩田が「寸評」を加えています。
あくまでも学生レポートという目的のために作ったものですから、レポートの内容を臨床現場で「そのまま」応用するのは厳に慎んでください。
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急性膿胸に対する適切な手術時期はいつか
急性膿胸は、先行する肺炎などから進展し、胸腔に膿が貯留した状態である。治療には、胸腔ドレナージと抗生剤投与による保存的治療と、外科的治療がある。この外科的治療について、いつ行われるのが最適であるのかを調べた。
急性膿胸は一般的に発症3ヶ月以内のものとされ、滲出液貯留と胸膜の浮腫・血管新生の起こるⅠ期(滲出期)、膿胸腔内へのフィブリン塊析出により隔壁が形成され腔が多房化するⅡ期(線維素膿性期)、析出したフィブリンが器質化し胸膜の肥厚が起こるⅢ期(器質化期)の3段階に分類される。Ⅰ期からⅡ期へは発症から2~14日、Ⅱ期からⅢ期へは3~4週で移行するとされているが、各病期の移行時期は症例ごとに異なると考えられている[1]。
Weissbergらは1971年から1994年にかけて膿胸で入院し初期治療として胸腔ドレナージと抗生剤投与(原因菌が同定されなかったものを除く)が行われた380人の患者に対し、後ろ向き研究を行っている。胸腔鏡検査が行われた107人は、Ⅰ期またはⅡ期の早期を含む1、Ⅱ期の晩期またはⅢ期を含む2群、特殊な病態を併発していた3群の3つに分類された。1うち30人が抗生剤投与と胸腔ドレナージによる治療を続けた結果2~3週間以内に治癒、残り19人では抗生剤投与の継続とタルクによる胸膜癒着にて寛解。2うち13人は肺剥皮術により4~15日で肺の拡張が得られた一方、残り38人は敗血症のためそれが不可能で、開窓術が行われた結果36人が回復、2人が死亡という結果になった[2]。このことから、Ⅰ期とⅡ期の早期の症例に対しては保存的治療が可能であるが、Ⅱ期の晩期およびⅢ期に陥った症例に対しては外科的治療が必要であったことがわかる。
急性膿胸に対する外科的治療には、胸腔鏡下手術と開胸手術が主に挙げられる。Striffelerらによる研究によれば、発熱あるいは胸水貯留から3週未満のⅡ期にあると思われる67人の患者に対して胸腔鏡下手術を行い、感染の制御および肺機能の回復に関して前向きに評価した結果、実際にⅡ期にあった症例に対しては胸腔鏡下手術が有効であったが、Ⅲ期以降にあった症例では、再発や呼吸機能の改善が期待できないなどの問題点もあり、そのような症例に対しては開胸手術が適当であるという結論に至っている[3]。
胸腔鏡下手術の至適時期がⅡ期とされる理由について、以下の2点が挙げられる。1つ目は、Ⅰ期では急性炎症により組織が脆弱であり、Ⅲ期では肥厚した胸膜の剥皮が容易ではないことから、手術操作により出血・損傷が生じやすいという点である。2つ目は、胸膜の肥厚と器質化の進んだⅢ期以降では胸膜の剥皮は困難で、肺の良好な再膨張が得られにくいという点である[4]。
ここで、急性膿胸における胸腔鏡下手術と開胸手術について、両者の比較を行ったメタアナリシスによれば、再発率においては二者間で有意差が認められなかったものの、手術時間、術後入院期間、胸腔チューブの使用期間、長期にわたるエアリークの頻度、罹患率、死亡率において、前者が後者に比べ優れている可能性があるとされている[5]。
上記の研究結果から、急性膿胸に対する外科的治療はⅡ期以降が適応となり、また、Ⅱ期に手術を行うことは、胸腔鏡下手術の選択を可能にすることがわかった。さらに具体的に言えば、Ⅱ期の晩期以降に手術を受けた群に死亡例があることから、Ⅱ期の早期に手術が行われることが望ましいと考えられる。
胸腔鏡下手術が開胸手術と比較してより良好な予後をもたらすのかという点についてはさらなる分析が必要であるとされているが、低侵襲性による美容面での利点や、手術時間の短縮による手術合併症のリスクの軽減、入院期間の短縮による患者のQOLの向上を見込めるという点で、胸腔鏡下手術を選択することのできる意義は大きいと考える。
以上より、急性膿胸に対する最も適切な手術時期は、Ⅱ期の早期であると結論付けた。
- Light RW: Parapneumonic effusions and empyema. Pleural diseases.3rd ed, 129-153, Williams & Wilkins, Baltimore, 1995.
- Weissberg D, Refaely Y: Pleural empyema: 24-year experience. Ann Thorac Surg 62: 1026-1029, 1996.
- Striffeler H, Gugger M, Hof VI, et al: Video-assisted thoracoscopic surgery for fibrinopurulent pleural empyema in 67 patients. Ann Thorac Surg 65: 319-323, 1998.
- 伊東真哉, 高嶋義光, 小林淳, ほか. 急性膿胸に対する胸腔鏡下手術―その至適時期についての考察―. 日呼外会誌. 2001; 15: 555-559.
- Hui Pan, Jiaxi He, Jianfei Shen, Long Jiang, Wenhua Liang, Jianxing He: A meta-analysis of video-assisted thoracoscopic decortication versus open thoracotomy decortication for patients with empyema. Journal of thoracic disease. Vol 9, No 7; 2006-2014, 2017.
寸評:こういうテーマはエビデンスレベルが高くないデータしかないのですが、臨床的には「それでよい」と思います。こういうダーティデータの扱いが上手になるって大事です。
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