注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員が吟味し、医学生レベルで合格の域に達した段階 で、本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。内容の妥当性については教員が責任を有していますが、学生の私見やロジックについてはできるだ け寛容でありたいとの思いから、(我々には若干異論があったとしても)あえて彼らの見解を尊重した部分もあります。あくまでもレポートという目的のために 作ったものですから、臨床現場への「そのまま」の応用は厳に慎んでください。また、本ブログをお読みの方が患者・患者関係者の場合は、本内容の利用の際に は必ず主治医に相談してください。ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
ステロイド使用患者のニューモシスチス肺炎の予防におけるST合剤の有用性
ニューモシスチス肺炎(Pneumocystis pneumonia: PCP)は、主訴を呼吸困難、発熱、乾性咳嗽とする、慢性肺疾患の患者や細胞性免疫が抑制状態にある患者に発症する日和見感染症である。(1)
危険因子としてステロイドがあり、アメリカの医療センターで1985年~1991年に診断されたPCP患者116人のうち、105人(90.5%)が診断の1ヶ月前以内にステロイドを投与されていたとの報告がある。その報告では、プレドニゾロン(Prednisolone: PSL)換算で平均30mg/日を投与されており、16mg/日で発症した症例もあった。(2)
PCPの標準予防薬はST合剤である。ST合剤は細菌の葉酸合成を阻害する作用があり、多くの細菌、原虫、Pneumocystis jiroveciiに有効である。(3)
2002年~2004年にかけてデンマークの大学病院で行われた50例のPCP患者への病歴調査によると、38例(76%)でステロイドが使用されていたが、その中でPCP予防を行っていた患者では発症例は1例(2%)のみと少数であった。(4)
また、2006年~2007年にかけてタイの大学病院で行われた後ろ向き研究によると、PSL換算で20mg/日以上のステロイドを2週間以上投与した138例の膠原病患者の中で、ST合剤を予防投与した59例は全例でPCPを発症しなかったが、予防投与を行わなかった79例のうち6例(7.3%)でPCPが発症した。ST合剤の副作用は投与した59例のうち5例(8.5%)で出現したが、致死的な有害事象はなく、薬剤の中止で全例回復した。(5)
上記からST合剤はPCP発症の予防に有用であると考えられ、特にPSL換算で20mg/日以上のステロイドを2、3週間以上使用する患者には推奨されるべきである。(6)
(1) HARRISON’S PRINCIPLES OF INTERNAL MEDICINE 18th Edition Dan L. Longo, et al. 2011 p1671-72.
(2) Pneumocystis carinii pneumonia in patients without acquired immunodeficiency syndrome: associated illness and prior corticosteroid therapy. Yale SH, et al. Mayo Clin Proc. 1996 Jan;71(1):5-13.
(3) レジデントのための感染症診療マニュアル 第3版 青木眞 p212-13
(4) Pneumocystis jiroveci pneumonia (PCP) in HIV-1-negative patients: a retrospective study 2002-2004. Overgaard UM, et al. 2007;39(6-7):589.
(5) Primary prophylaxis for Pneumocystis jirovecii pneumonia in patients with connective tissue diseases. Vananuvat P, et al. Semin Arthritis Rheum. 2011 Dec;41(3):497-502.
(6) Prevention of infection due to Pneumocystis spp. in human immunodeficiency virus-negative immunocompromised patients. Rodriguez M1, et al. Clin Microbiol Rev. 2004 Oct;17(4):770-82.
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