注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員が吟味し、医学生レベルで合格の域に達した段階 で、本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。内容の妥当性については教員が責任を有していますが、学生の私見やロジックについてはできるだ け寛容でありたいとの思いから、(我々には若干異論があったとしても)あえて彼らの見解を尊重した部分もあります。あくまでもレポートという目的のために 作ったものですから、臨床現場への「そのまま」の応用は厳に慎んでください。また、本ブログをお読みの方が患者・患者関係者の場合は、本内容の利用の際に は必ず主治医に相談してください。ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
4月からの新シリーズで、やや「荒い」ところがありますが、まあ逆に4月にしては良く出来ていると思います。
Clostridium difficile関連下痢症の予防としての整腸剤使用の有効性
Clostridium difficileは抗菌薬関連下痢症の原因として知られている。数日で軽快することも多いが、1日に20回以上の下痢を伴うような重症例では時に致命的となる(1)。しばしば院内アウトブレイクの原因にもなり、感染管理上も重要な疾患であると言える。実際の臨床ではC. difficile関連下痢症(C. difficile-associated diarrhea, 以下CDAD)の予防として整腸剤を投与する(2)ことがあり、今回はその有用性について検討したい。
臨床で使われる整腸剤は、含まれている微生物によって、消化管部位に対する親和性や抗菌薬に対する耐性の有無などに違いがあり、その特徴によって使い分けられている。整腸剤がCDADに有効であるとされる根拠は、(1)抗生物質投与による菌交代現象後に腸内細菌叢のバランスを取り戻すため、(2)整腸剤に含まれる菌が酸を産生することで抗菌活性を発揮するため、(3)CD toxinA, Bの腸上皮への結合を阻害するため、(4)免疫機構を調節するため、の4つの理由によると考えられている(2)。
現在報告されている整腸剤の有効性について、Goldenbergらの実施したメタアナリシスによると、抗菌薬投薬中の患者(0歳〜成人)4213名に対してCDADの発症率を比べたところ、整腸剤を使用した患者群で2.0 %、プラセボ群で5.5 %とCDADの発症率を64 %減少させることがわかった(3)。また有害事象を含めた効果を示したJohnstonらのメタアナリシスによると、抗菌薬使用中の患者(生後2週間〜成人)3818名において、整腸剤を使用した患者群でCDAD発症を含む有害事象の発生率が9.3 %、プラセボ群で12.6 %とCDADのリスクを66 %も減少させることが示された(4)。ところがその後実施されたPLACIDE studyの結果では、2941名の抗菌薬使用中の高齢患者におけるCDADの発症を含む抗菌薬関連下痢症(ADD)の発生率は、整腸剤使用群で10.8 %、プラセボ群で10.4 %と、ADDのリスク減少には繋がらなかった(5)とされており、CDADを含むADD予防のためのルーチンでの整腸剤使用は効果がないとの報告もある。
こうした相反する結果の中で、もう少し詳細に事実を追ってみたい。McFarland らの調査によると、354名の患者を対象に、整腸剤に使われる様々な菌種を比較した結果、Saccharomyces boulardiiのみがCDADの予防に効果があった(6)ことが示されている。また124名のCDAD患者を対象に、抗菌薬での治療と並行してS. boulardiiを含む整腸剤とプラセボを4週間摂ってもらったところ、CDAD再発時に治療が難渋する確率がプラセボ群では64.7%、S. boulardii摂取群では19.3%と有意な差があった(7)。
以上のことから、”整腸剤”一括りでは予防効果の一貫した結論が出なかったが、菌種を選んだ上で、さらに期間を限定すれば、CDADに対する発症リスクと重症化を抑えることが出来るということがわかった。しかし現在、日本で医療用医薬品として処方できる整腸剤の中でSaccharomyces属を含む整腸剤は存在するものの、添付文書等では種名までの詳細な情報が確認できない。したがって実臨床に応用することは、これまでのエビデンスからの確信度と整腸剤の成分から判断すると、かなり難しいと思われる。よって現時点では、CDADに対する予防目的に整腸剤を単独で使用することは推奨できないと考える。
◆参考文献◆
- Mandell GL, Bennett JE, et al. Principles and practice of infectious diseases 7th edition
- Lisa E Davidson, et al. Clostridium difficile and probiotics. Up To Date. Aug 19, 2013 (last updated)
- Goldenberg JZ, Ma SS, Saxton JD, et al. Probiotics for the prevention of Clostridium difficile-associated diarrhea in adults and children. Cochrane Database Systematic Review 2013; 5:CD006095.
- Johnston BC, Ma SS, Goldenberg JZ, et al. Probiotics for the prevention of Clostridium difficile-associated diarrhea: systematic review and meta-analysis. Ann Intern Med 2012; 157:878.
- Allen SJ, Wareham K, Wang D, et al. Lactobacilli and bifidobacteria in the prevention of antibiotic-associated diarrhea and Clostridium difficile diarrhea in older patients (PLACIDE): a randomized, double-bind, placebo-controlled, multicenter trial. Lancet 2013; 382:1249
- McFarland LV. Meta-analysis of probiotics for the prevention of antibiotics associated diarrhea and the treatment of Clostridium difficile disease. Am J Gastroenterol 2006; 101:812
- McFarland LV, Surawicz CM, Greenberg RN, et al. A randomized placebo-controlled trial of Saccharomyces boulardii in combination with standard antibiotics for Clostridium difficile disease. JAMA, 1994, 271:1913
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