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注意! これは神戸大学病院医学部生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員がスーパーバイズしています。そして本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。
学生に与えられたレポート作成時間は総計5時間。月曜日に「質問形式」のテーマを考え、岩田が審査し、そのテーマが妥当と判断された時点からレポート作成スタート、5時間以内に作成できなければ未完成、完成して掲載レベルであればブログに掲載としています。お尻に岩田が「寸評」を加えています。
あくまでも学生レポートという目的のために作ったものですから、レポートの内容を臨床現場で「そのまま」応用するのは厳に慎んでください。
ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
人工血管置換術の部位別での感染合併の頻度に差はあるのか
全体の症例数で見た場合感染を合併するのはどの程度の割合なのか、また人工血管の部位別でも差があるだろうと考えてテーマとした。
アメリカでの市場調査、医療機器メーカーや医療機関から提供されたデータを元にした毎年の統計によると人工血管全体で450000件中16000件(4%)に感染が生じた。報告の中からシャント形成の動静脈グラフト、大動脈グラフト、大腿-膝窩動脈グラフトの3つの群に分けた場合シャント形成に使われる人工血管では5%程度の感染が生じた。大腿動脈では4%感染が生じた。大動脈については2%程度感染が生じた1。
日本の報告では84施設1301件の腹部大動脈で20例1.5%、49施設1080件のシャント形成で2件0.2%、82施設2302件の胸部大動脈置換で89件3.9%、56施設608件の末梢血管バイパス手術で20件3.3%で感染が生じた2。
アメリカと比べてシャント形成術のみが日本が明らかに低いが厚生労働省のデータの判定基準(3)によると埋入物をおいた場合は術後1年以内とされていたこととアメリカの報告では感染の期間については言及されていないため術後1年以降の感染も含まれている可能性、また日本のデータは2016年のデータであり、アメリカのデータは引用先の文献では90年代のデータも含まれていたことが影響している可能性がある。
日本とアメリカのデータ自体は見つけることができたが、人工血管感染の部位別で統計学的に分析した文献は見つけることができなかったため真に部位によって頻度に差があるのか結論を出すことができなかった。
参考文献
(1)Rabih O. Darouiche, M.D. April 1, 2004 N Engl J Med 2004; 350:1422-1429
DOI: 10.1056/NEJMra035415 Treatment of Infections Associated with Surgical Implants
(2)厚生労働省院内感染対策サーベイランス2016年 年報 https://janis.mhlw.go.jp/report/ssi.html
(3)厚生労働省院内感染対策サーベイランス手術部位感染判定基準 https://janis.mhlw.go.jp/section/standard/standard_ssi_ver1.2_20150707.pdf
寸評:良いテーマですし、よく頑張ったと思います。眼の前のデータを自分で検証する練習にもなりましたね。R、使ってみましょう。
注意! これは神戸大学病院医学部生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員がスーパーバイズしています。そして本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。
学生に与えられたレポート作成時間は総計5時間。月曜日に「質問形式」のテーマを考え、岩田が審査し、そのテーマが妥当と判断された時点からレポート作成スタート、5時間以内に作成できなければ未完成、完成して掲載レベルであればブログに掲載としています。お尻に岩田が「寸評」を加えています。
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進行性多巣性白質脳症に対してメフロキン療法は有効であるか?
進行性多巣性白質脳症(PML)は脳に広く分布する多巣性脱髄疾患であり、AIDSや悪性血液疾患に対する治療による免疫抑制状態の患者に起こる疾患である。この疾患を引き起こす原因ウイルスとしてJCウイルス(JCV)があり、免疫低下状態でJCVの再活性化が起こることで発症する1) 。現在PMLに対する特異的な治療法はないが、HIV患者のPMLの第一選択が抗レトロウイルス療法(ART)であり、非HIV患者のPMLに対しては免疫抑制を引き起こす薬剤の減量または中止が推奨されている1),2)。しかし免疫再構築が遅くなったり不可能であったりする場合は、JCVに対する抗ウイルス療法が必要となる。JCVに対する抗ウイルス薬についてのある研究報告では、in vitroにおいて、PMLに対して抗マラリア薬であるメフロキンが有効性を発揮したとされている3)。そこでメフロキンがPMLに対して有効であるか調べ、考察してみることにした。
DavidらはPMLに対するメフロキンが有用であるかどうか評価するためにオープンラベルのランダム化前向き臨床試験を行った。37人のPML患者を次の4つの群に分けられ、治療開始から4週目、8週目の脳脊髄液でのJCV DNA量が調べられた。
1)標準治療(SOC)だけを行った群(n=7)
2)SOC+ 4週目からメフロキンを投与した群(n=5)
3)SOC+ 8週目からメフロキンを投与した群(n=5)
4)SOC+ 始めからメフロキンを投与した群(n=20)
メフロキンとSOCによるJCV DNA量に有意差が見られず(4週目でp=0.2972)、この研究において有意差が出る可能性が低いと判断され中止となった4)。
Davidらの研究によるとメフロキンによるJCV DNA量の減少は見られず、抗JCV作用は認められなかった。しかしDavidらの研究よってメフロキンがPMLに効果がないと断言するのには、患者のサンプルサイズが小さい。また、近年、PMLに対するメフロキン、ミルタザピン、リスペリドンの組み合わせによる治療で良好な経過をした2症例の報告5)がある。メフロキンが効果を発揮するかしないかの違いは、人種差や患者の基礎疾患などの因子が関係している可能性がある。PMLに対するメフロキンの有効性が、人種や患者の基礎疾患の有無などによって変化するかどうか調べる研究や、より規模を大きくした研究がなされる必要があると思う。
参考文献
1)ハリソン内科学第5版.2017;p926
2)進行性多巣性白質脳症診療ガイドライン2017 厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患政策研究事業プリオン病及び遅発性ウイルス感染症に関する調査研究班
3)Brickelmaier M et al. Identification and characterization of mefloquine efficacy against JC virus in vitro. Antimicrob Agents Chemother.2009 May;53(5):1840-9
4)David B.Clifford et al. A study of mefloquine treatment for progressive multifocal leukoencephalopathy: results and exploration of predictors of PML outcomes. J Neurovirol.2013 Aug;19(4):351-8.
5)Akagawa Y.et al. Two patients with progressive multifocal leukoencephalopathy with immune response
against JC virus showing good long-term outcome by combination therapy of mefloquine, mirtazapine, and risperidone. Rinsho Shinkeigaku.2018 May 25;58(5):324-331
寸評 興味深いレポートです。なぜ臨床医学の世界は基礎医学のそれより保守的で、また保守的であるべきか、という説明の一つでしょう。
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学生に与えられたレポート作成時間は総計5時間。月曜日に「質問形式」のテーマを考え、岩田が審査し、そのテーマが妥当と判断された時点からレポート作成スタート、5時間以内に作成できなければ未完成、完成して掲載レベルであればブログに掲載としています。お尻に岩田が「寸評」を加えています。
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感染症内科レポート
「タクロリムスの用量によってどの程度感染症のリスクが上昇するのか」
タクロリムスは、脱リン酸化酵素であるカルシニューリンを阻害することでIL-2、IL-3、IFN-γ等のサイトカインの産生を抑制し、T細胞の活性化を抑制する免疫抑制剤の1つである。現在では腎・肝移植における拒絶反応の抑制や、重症筋無力症、関節リウマチなど様々な疾患の治療に用いられている(1)。では、タクロリムスの持つ免疫抑制作用によって、患者が易感染状態となってしまうことはないのだろうか。今回はタクロリムスと感染症のリスクの関係について考察することとした。
D. E. Yocumらは455人の活動性リウマチ性関節炎(RA)患者を無作為に3グループに分け、それぞれプラセボ、タクロリムス2mg、タクロリムス3mgを1日1回6ヶ月間投与する二重盲検試験を行ったが、それぞれのグループの感染症発症率に有意差は認められなかった(2)と報告している。
また、この二重盲検試験に3ヶ月以上参加したプラセボ群100人、タクロリムス2mg投与群103人、タクロリムス3mg投与群108人に新規のRA患者585人を加えた896人に対し、タクロリムス3mg/日を12ヶ月間投与した。その結果、インフルエンザ症候群が246例(27.5%)、副鼻腔炎が59例(6.6%)、尿路感染症が57例(6.4%)、咽頭炎が53例(5.9%)発生し、そのうちタクロリムスに関連していると考えられるのはインフルエンザ症候群が42例(4.7%)で、残りは全て2%未満だった。また、タクロリムスが関連していると考えられる重篤な有害事象として、肺炎5例(0.6%)、インフルエンザ症候群、感染症、尿路感染、敗血症がそれぞれ1例(0.1%)ずつ発生した(3)。
一方、P. B. Vinodらの研究によると、腎移植後の患者へのタクロリムス等の免疫抑制剤の使用は、結核、水痘帯状疱疹ウイルス、パルボウイルスB-19、ポリオーマウイルス、ノカルジア、ムコール菌症等の日和見感染症の頻度を増加させる(4)とのことだった。
これら結果から、関節リウマチなどの元々免疫抑制の少ない患者に対してタクロリムスを単剤で投与しても、投与量、投与期間ともに感染症の増加とは殆ど関係はないが、臓器移植患者など複数の薬剤で免疫を抑制している患者に対するタクロリムスの投与は、日和見感染症のリスクを増大させる可能性があると考えられる。しかし、D. E. Yocumらの研究には、認められた感染症がタクロリムスと関連していると判断した根拠が示されていないこと、感染症の発生時期や原因微生物についても言及されていないことなど問題点も多い。また、P. B. Vinodらの研究からはタクロリムスを投与した際の日和見感染症の発生数や発生頻度など、具体的な数値を得ることができなかった。
今回の考察では十分なデータを入手することができたとは言いがたいが、タクロリムスは細胞性免疫を強く抑制するため、ウイルス、真菌、原虫、細胞内寄生菌などの原因微生物による感染症の頻度がより増加すると考えられる。今後、こういった原因微生物を予想した感染症発症率について、プラセボと比較した前向き研究を行うことで今回の考察に対する答えが得られるかもしれない。
1) Kimito Kawahata. Topics: II. Immunosuppressant/antirheumatic drugs; 8. Tacrolimus. Treatment of rheumatic diseases: current status and future prospective. 2011, Vol. 100, No. 10, pp 2948-2953.
2) David. E. Yocum, et al. Efficacy and Safety of Tacrolimus in Patients with Rheumatoid Arthritis A Double-Blind Trial. ARTHRITIS & RHEUMATISM. 2003, Vol. 48, No. 12, pp 3328-3337.
3) David. E. Yocum, et al. Safety of tacrolimus in patients with rheumatoid arthritis: long-term experience. Rheumatology. 2004, Vol. 43, No. 8, pp 992-999.
4) P. B. Vinod, et al. Opportunistic infections (non-cytomegalovirus) in live related renal transplant recipients. Indian J Urol. 2009, 25(2): 161-168.
寸評:「増加」というからにはベースラインが必要なことを学びました。あと、いろんな話がある、のだけれど、あまり決定的な話はないので、タクロリムスのようなカルシニューリンは免疫抑制はあるけれどもそこまでひどくはない、という事実を学びました。程度問題・問題ですね。
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アンピシリンが緑膿菌に効く可能性は本当にないのか
院内で肺炎を発症した際、緑膿菌の関与を疑った場合はPIPC/TAZやCFPMを用いることがガイドラインでは推奨されている。逆に緑膿菌のカバーが不要であるということで通常型の誤嚥性肺炎ではABPC/SBTが第一選択とされており、本邦では最も頻用されている。1)
このように緑膿菌に対してはアンピシリンが無効であるとされているが、その理由を考えてみる。そもそもβラクタム剤が効果を発揮するには防御的外膜上に存在するポーリンを通過した後、ペニシリン結合蛋白に結合して細胞壁合成を阻害する必要がある。アンピシリンは疎水性であるためポーリンを通過できず、緑膿菌に効くことは不可能である。2)3)そこで緑膿菌の外膜になんらかの異常が生じればアンピシリンが緑膿菌に効く可能性があると考えた。
Kang-Mu Leeらの実験の結果、外膜の集合蛋白と脂肪酸合成酵素をコードする遺伝子であるbamBに変異がある緑膿菌はアンピシリンに反応することが判明した。4)この実験ではプロトタイプの緑膿菌(PAO1)とbamBに変異がある菌ΔbamB、fabYに変異があるΔfabYにおける抗菌薬への感受性を比較していた。比較には細胞壁をターゲットとするバンコマイシン、セフトリアキソン、アンピシリン及び蛋白合成を阻害するトブラマイシン、DNAの複製を阻害するシプロフロキサシンの5種類の抗菌薬が用いられた。それぞれの抗菌薬をLB培地下で緑膿菌に投与し16時間後に残ったコロニー数を数え、コントロール群と比較された。その結果、PAO1にはいずれの抗菌薬にも効果がないか僅かに反応する程度であった。一方でΔbamBはバンコマイシン、セフトリアキソン、アンピシリンへの耐性を完全に失っていた。ΔfabYは同じ処理を行ったところ、100~1,000のコロニーが抗菌薬に反応して死滅していた。トブラマイシン、シプロフロキサシンを投与した群に関してはΔbamB、ΔfabY共にそれほどコロニーの減少が見られなかった。
以上のことから基礎レベルのデータではbamBに変異のある緑膿菌はアンピシリンを含む細胞壁をターゲットとする抗菌薬に対して耐性を失うことが判明した。しかし本実験で観測対象となっていたΔbamBは実験室で人工的に遺伝子に変異を加えたものであり、自然に発生するものではない。従って、実臨床の場の緑膿菌に外膜異常が生じアンピシリンが効果を発揮するとは考えにくい。特定の遺伝子を操作することは新しい感染症治療の着眼点となりうるが、臨床的に効く根拠やデータは無く、アンピシリンが緑膿菌に効く可能性を示すものではなかった。
【参考文献】
寸評:テーマは非常に面白い。ビトロとビボの違いですね。よって、診療現場は非常に保守的であり、ちょっとした動物実験レベルでコロコロ治療方針が変わるというのは危ういのですね。
注意! これは神戸大学病院医学部生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員がスーパーバイズしています。そして本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。
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バンコマイシンによる血小板減少はどのような機序で起こり、
発症までおよび休薬により回復するまでにどれくらいの時間を要するのか
薬剤による血小板減少の頻度は年間人口100万人に10例と報告されているが(1)、血小板減少をきたす薬剤のうち頻度が高いものとしてキニーネ、トリメトプリム-スルファメトキサゾール、バンコマイシン(以下VCM)などが挙げられる(2)。今回私は、当初VCMの関与が疑われた血小板減少をきたした患者さんを担当したので冒頭のテーマを設定した。
まず、薬物による血小板減少が起こる機序としては、①薬剤依存性抗体②キニン型③フィバン型④アブキシマブ型⑤免疫複合体⑥薬剤非依存性抗体があげられ(1)、VCMについては薬剤依存性抗体による機序が知られているが、抗体が証明されなかったケースレポートも見られる(3)。抗体が検出されない症例ではどういう機序で血小板が減少しているかについて文献を検索したところ、Towhidaらの報告があった(4)。彼らは、VCMがヒト血小板表面に細胞膜スクランブリングおよびCD62P(P-セレクチン)・活性化インテグリンαIIbβ3(CD41 / 61)の発現、カスパーゼ-3活性化を誘発し、これらが血小板のアポトーシスを引き起こすと報告しており、理論的にはこれが血小板減少を加速させている可能性があるとしている。
次に発症までの時間について、典型的には薬剤による血小板数の低下は薬物に暴露されてから2週間以内に起こり、回復までの期間については、薬物代謝および排泄が腎不全または肝不全によって損なわれない限り、休薬後1~2日で血小板数の回復がみられ、1週間以内に元のレベルに戻るとされている(2)。VCM投与により血小板減少をきたした29人を対象とした研究で、Drygalskiらは投与開始後平均8日後(範囲1〜27日)に最小値を記録し、血小板レベルの回復に必要な時間は平均7.5日(範囲4〜17日)であったと報告している(5)。
以上の報告をまとめると、「VCMによる血小板減少は主に抗体が原因で、投与開始から1週間前後で起こり、休薬によって1~2日で改善し1週間前後で元のレベルまで回復するという経過をたどるものが多い」となる。文献(5)ではこのような経過をたどる理由についての言及はなかったが、機序が薬剤依存性抗体ならば血小板減少をきたすほど産生されるまでにある程度時間がかかることや、抗原である薬剤が中止されれば速やかに回復することが想像される。
文献(5)の限界点としては、対象が抗体が証明された例のみであるため、抗体が検出されない例については検討できていない。また、症例はすべて米国のものだったので直接日本に当てはめられない可能性がある。当文献では投与量や間隔、投与方法が発症に関連するかについての分析はなかったが、米国と日本では血中濃度の計算方法が異なるため、投与量による影響もあるかもしれない。さらに、文献(5)は2007年に発表されたものであるため、現在はより詳しい研究がなされている可能性がある、などが挙げられる。
今後としては、抗体が検出されない症例での血小板の挙動を調べることがより詳細な機序の解明につながるのではないかと考えられ、そのような文献は探した限りではあまり見つからなかったため、さらなる研究が期待される。
(1) Drug-Induced Immune Thrombocytopenia N Engl J Med 2007; 357:580-587
Richard H. Aster, M.D., and Daniel W. Bougie, Ph.D.
(2)Drug-induced immune thrombocytopenia UP TO DATE
(3) Vancomycin‐Induced Thrombocytopenia Without Isolation of a Drug‐Dependent Antibody. Pharmacotherapy 32,(11); November 2012; 321-325 Michael A. Ruggero Pharm.D. et al.
(4) Stimulation of Platelet Death by Vancomycin. Cell Physiol Biochem 2013;31:102-112 Syeda T. Towhida et al.
(5) Vancomycin-Induced Immune Thrombocytopenia N Engl J Med 2007; 356:904-910 Annette Von Drygalski, M.D. et al.
寸評:ウェブには挙げれませんでしたが、発症機序のイラストが秀逸でした。内容も良い議論だったと思います。
ペニシリンアレルギーの患者にペニシリン系の薬剤を使用してもよいのか?
今回の患者の方は、ペニシリンアレルギーの疑いがあったにも関わらず、
Tazobactam Piperacillinを投与してもアレルギー反応が出なかった。このことから、ペニシリンアレルギーがあるとされている患者にペニシリンを使用してもよいのかについて2つの論文を引用して考察する。
・ペニシリンアレルギーがあると自己申告した150人の被験者(平均年齢42歳、女性54%、黒人47%)に対しペニシリンの皮内テストを行った。この研究ではⅠ型アレルギーについてのみ論じている。皮内テストでアレルギーがあると自己申告したにも関わらずⅠ型ペニシリンアレルギーが陰性だったのは137/150で91.3%(95%ZCI 86.7-96.0)であった。I型アレルギーが陽性である割合は女性より男性(11.6%対9.9%、OR比 1.993、95%CI 0.621-6.404)、白色人種より黒色人種(14.8%対5.5%、OR比 2.693、95%CI 0.790-1.174)でより高かったが、有意差はない。1)
・2011年から2016年の間で、ペニシリンアレルギーがあると自己申告した被験者100人(平均42歳、女性54%)に対し、ペニシリンの皮内テストを行い、アレルギー反応が見られなかった患者について9日間の漸増経口投与試験が行われた。結果は、被験者のうち81%(95%CI 71.9-88.2)はペニシリンに対するアレルギーを示さなかった。アレルギー反応が確認されたのは19人で、その内の16人は、皮内テストによって発症した。3人は経口試験によって検出された。女性は、OR比が4.0(95%CI 1.23-13.2)で、真にペニシリンアレルギーである可能性が有意差を持って男性より高かった。重篤な有害事象はなかった。2)
以上より、ペニシリンアレルギーを持っていると自己申告する患者の大半はペニシリンアレルギーを持っておらず、また真にアレルギーである患者もほとんどが皮内テストで発見することができるため、疑いがあるからといって、試験をせずにペニシリンを使用できないとするのは早計である。ただし、皮内テストで分かるのは、即時型のⅠ型アレルギーだけであるので、Ⅱ~Ⅳ型アレルギーを持つ場合は発見できない。ペニシリン投与時の水泡性皮疹、溶血性貧血、免疫複合体反応、Stevens-Johnson症候群、中毒性表皮壊死症などの既往がある場合は禁忌である3)。
参考文献
1) Department of Emergency Medicine, University of Cincinnati, Cincinnati. The use of penicillin skin testing to assess the prevalence of penicillin allergy in an emergency department setting. Ann Emerg Med. 2009 Jul.
2) Marwood , Aguirrebarrena , Kerr , Welch , Rimmer . De-labelling self-reported penicillin allergy within the emergency department through the use of skin tests and oral drug provocation testing. Emerg Med Australas. 2017 Oct;29
3)レジデントのための感染症診断マニュアル 第3版 青木 眞
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「真菌性眼内炎の治療効果判定にβ-D-グルカンは有用か?」
血清β-D-グルカン(以下BGと略す)の測定は真菌性眼内炎の診断に有用といわれている。Tanakaらの研究では46人の内因性真菌性眼内炎の90%でBG>20pg/mLがみられ76%での38度以上の発熱がみられ2つの所見をあわせることでもっとも確率の高い診断ができたとの報告がある。De PasaleらはBG上昇は真菌の残存量の代替マーカーになるが抗真菌薬投与後の解釈は不明であると報告している。確かにBGは真菌性眼内炎の診断(特に除外診断)には有用と言えそうだが効果判定に使えるのか疑問に思った。そこで抗真菌薬投与開始後のBGの推移や効果判定に用いるカットオフ値などを示した研究を探したがみつからなかった。そのため侵襲性真菌症での治療前後のBG推移についての研究を使い真菌血症を伴う真菌性眼内炎にしぼってBGの有用性を考えようと思う。(Nagaoらの報告によればカンジダ血症204人のうち54人が眼内炎と診断された)1)
S,Kooらは69人の侵襲性アスペルギウス症(IA)、40人の侵襲性カンジダ症(IC)、18人のニューモシスチス症(PCP)で抗真菌薬投与前と投与開始1~2週間後でのBGの変化と臨床結果を比べたコホート研究を行った。治療開始後、臨床的成功(血液培養で陰性または症状の軽減があったこと)をしたほとんどの症例でBGの低下は認められたものの、53人のIA、40人のICでBGの変化と臨床結果に有意差は表れなかった。この研究の問題点としては投与期間に関わらず1~2週間後でしかBG変化をみていないことが挙げられる。2)
Siraya Jaijakul らの研究ではカンジダ血症あるいは侵襲性カンジダ症と診断された患者203人に対してアニデュラファンギンを7~28日投与し、投与前と投与後のBG値の変化と臨床結果を比べた研究である。臨床的成功となった患者では投与前と投与後に平均BGの低下に有意差(p=0.03)があった。BG値の低下と臨床的成功の感度、特異度、陽性的中率、陰性的中率は62%、61%、90%、22%であった。この研究の問題点としては陽性的中率PPVの高さでBG推移と臨床結果に相関があるとしているが事前確率(全患者中で臨床的成功が得られた確率)に左右されるためPPVを根拠に有用といえないと考えた。3)
この2つの研究より侵襲性真菌症を背景とする真菌性眼内炎でBGが治療の効果判定に有用とは言い難いということが結論となる。今回、真菌性眼内炎全体での評価はできなかった。またBG<20pg/mLは1つの指標になる可能性があるが侵襲性真菌症を背景とするものでは2つの研究からはかなり厳しい基準である。(そうでない真菌性眼内炎に対しては有用かもしれない)BGを眼底所見などとあわせて1つの指標とすることで予後の判定に使えるということはありえるだろう。
・出典
1)ANTON M. KOLOM EYER, MD, PHD et al: Beta-d-glucan testing in patients with fungal endophthalmitis 2018
2)Koo S, Baden L R, Marty F M: Post-diagnostic kinetics of the (1→3)-β -D-glucan assay in invasive aspergillosis,invasive candidiasis and Pneumocystis jirovecii pneumonia. Clin Microbiol Infect 2012
3)Jaijakul S, Vazquez J A, Swanson R N, Ostrosky-Zeichner L: (1,3)-β -D-glucan as a prognostic marker of treatment response in invasive candidiasis. Clin Infect Dis 2012
寸評:「この話」と「あの話」をいっしょにすんな、の典型例ですね。そもそも治療効果の判定とするゴールドスタンダードは何?という議論をするとこの問題の難しさがわかりますね。
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「慢性骨髄炎において外科的デブリードマンの範囲は予後に影響を与えるか」
慢性骨髄炎とは細菌の持続感染、腐骨の存在、軽度の炎症の持続、瘻孔によって特徴付けられる骨の長期にわたる感染症と定義づけられている1)。慢性化し腐骨を形成すると難治化、再燃しやすいため長期間の治療が必要となる。抗菌薬のみでは治癒は困難で、外科的デブリードマン+長期の抗菌薬治療が必要とされている2)。しかし外科的デブリードマンと抗菌薬治療を行っても20~30%の感染の再発があるという報告がある1)。そこで外科的デブリードマンに着目して外科的デブリードマンの範囲によって予後に変化があるかについて考察する。今回のレポートでは予後を感染の再発率として考えることとする。
結果はグループ1に再発した患者はおらず、グループ2は8人(28%)が再発しいずれもタイプBの患者であった。グループ3は1年以内に全ての患者が再発した。
以上の結果より、骨切除の範囲によって予後すなわち感染の再発率は異なり、感染への反応に影響を与える因子を持たない患者の場合はグループ2に行った5㎜以下の健常域を持たせた腐骨の切除が望ましいといえる。
ただ、この切除範囲の決定は術中における術者の判断によるもので、パプリカ徴候のように肉眼的判断が必ずしも健常組織を示しているとは限らない。そこでLucian Fodorらは5㎜を超える広範囲骨切除を提唱したが、骨皮質の体積が70%以下になると医原性骨折のリスクが高くなる4)ので切除に加え、予防的創外固定を用いることを推奨している。
したがって、慢性骨髄炎における感染の再発を防ぐためには外科的デブリードマンを5㎜以下の健常域を持たせた腐骨の切除もしくは、予防的創外固定の管理が適切に行うことが可能なら広範囲骨切除が望ましいと考える。
1) Ketan C Pande et al. Optimal management of chronic osteomyelitis: current perspectives. Dovepress journal. 31 August 2015 Volume 2015:7 Pages 71-81.
2) 岡秀昭「感染症プラチナマニュアル2018」メディカル・サイエンス・インターナショナル
3) Simpson AH et al.Chronic osteomyelitis. The effect of the extent of surgical resection on infection-free survival. J Bone Joint Surg Br. 2001 Apr;83(3):403-7.
4) Lucian FODOR et al. Prophylactic external fixation and extensive bone debridement for chronic osteomyelitis. Acta Orthop. Belg., 2006, 72, 448-453
寸評:文章が分かりづらかったので、だれが読んでも同じに解釈できるような文章にしましょう。議論の混乱もややありました。
注意! これは神戸大学病院医学部生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員がスーパーバイズしています。そして本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。
学生に与えられたレポート作成時間は総計5時間。月曜日に「質問形式」のテーマを考え、岩田が審査し、そのテーマが妥当と判断された時点からレポート作成スタート、5時間以内に作成できなければ未完成、完成して掲載レベルであればブログに掲載としています。お尻に岩田が「寸評」を加えています。
あくまでも学生レポートという目的のために作ったものですから、レポートの内容を臨床現場で「そのまま」応用するのは厳に慎んでください。
ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
重症軟部組織感染症の診断において水疱形成は有用な所見か?
重症軟部組織感染症である壊死性筋膜炎、また、その前駆状態である蜂窩織炎では皮膚症状として水疱形成があげられる。しかし、水疱という臨床所見は重症軟部組織感染症以外の疾患、特に皮膚科領域のものにおいてしばしば見られるものである。したがって、水疱形成という所見が重症軟部組織感染症の診断、またその重症度の評価に重要な所見であるかどうかを考察する。
まず、水疱形成が重症軟部組織感染症の診断に有用かを考える。Headleyらの報告では、軟部組織の浮腫、紅斑、潰瘍形成、水疱形成、壊死は壊死性軟部組織感染症の診断において有用な所見であるという記載もあるが、発症者の中で、それらの臨床症状を呈している症例数・頻度などの記載はなく水泡形成は診断において補助的な役割しか持たない、と考えられる1)。また、Davidらの報告では発症者の中で水疱形成をしている症例の割合は23%であり、診断において感度の高いものであるとは言えない2)。したがって、重症軟部組織感染症では水疱形成は必発の臨床所見ではないため、有用な所見とは言い難いと言える。
次に重症度の評価に水疱形成が有用かどうかついて考察する。Wangらの報告では壊死性筋膜炎において、その進展期間に水疱を呈する症例が増加する、つまり重症度が高くなれば水疱形成がみられやすいという報告があり、また、診断の初期において水疱が見られるのは5-24%足らずに過ぎないという記載もあった3)4)。
これらのことから、重症軟部組織感染症と水疱形成を呈する他の疾患との鑑別に水疱形成は有用な所見であるとは言えず、水疱形成はあくまで重症軟部組織感染症を示唆する所見のひとつにすぎないと言える。しかし、蜂窩織炎様の症状であっても、水疱形成の所見があれば壊死性筋膜炎である可能性が高まるため、早急な対応が必要になるだろう。
1)AJ Headley Necrotizing et al;soft tissue infections: a primary care review. Am Fam Physician 2003; 323:328
2)David C et al. Necrotizing Soft Tissue Infections Risk Factors for Mortality and Strategies for Management. ANNALS OF SURGERY 1996 Vol.224, No. 5, 672-683
3)YS Wang et al. Staging of necrotizing fasciitis based on the evolving cutaneous features. International Journal of Dermatology 2007. 46: 1036-1041
4)Rukshini Puvanendran et al; Necrotizing fasciitis. Canadian family physician 2009; 55: 981-987
寸評:オリジナルでよいリサーチクエスチョンには答えがないか、ほとんどない。というわけで研究しましょう。
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