注意! これは神戸大学病院医学部生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員がスーパーバイズしています。そして本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。
学生に与えられたレポート作成時間は総計5時間。月曜日に「質問形式」のテーマを考え、岩田が審査し、そのテーマが妥当と判断された時点からレポート作成スタート、5時間以内に作成できなければ未完成、完成して掲載レベルであればブログに掲載としています。お尻に岩田が「寸評」を加えています。
あくまでも学生レポートという目的のために作ったものですから、レポートの内容を臨床現場で「そのまま」応用するのは厳に慎んでください。
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重症軟部組織感染症の診断において水疱形成は有用な所見か?
重症軟部組織感染症である壊死性筋膜炎、また、その前駆状態である蜂窩織炎では皮膚症状として水疱形成があげられる。しかし、水疱という臨床所見は重症軟部組織感染症以外の疾患、特に皮膚科領域のものにおいてしばしば見られるものである。したがって、水疱形成という所見が重症軟部組織感染症の診断、またその重症度の評価に重要な所見であるかどうかを考察する。
まず、水疱形成が重症軟部組織感染症の診断に有用かを考える。Headleyらの報告では、軟部組織の浮腫、紅斑、潰瘍形成、水疱形成、壊死は壊死性軟部組織感染症の診断において有用な所見であるという記載もあるが、発症者の中で、それらの臨床症状を呈している症例数・頻度などの記載はなく水泡形成は診断において補助的な役割しか持たない、と考えられる1)。また、Davidらの報告では発症者の中で水疱形成をしている症例の割合は23%であり、診断において感度の高いものであるとは言えない2)。したがって、重症軟部組織感染症では水疱形成は必発の臨床所見ではないため、有用な所見とは言い難いと言える。
次に重症度の評価に水疱形成が有用かどうかついて考察する。Wangらの報告では壊死性筋膜炎において、その進展期間に水疱を呈する症例が増加する、つまり重症度が高くなれば水疱形成がみられやすいという報告があり、また、診断の初期において水疱が見られるのは5-24%足らずに過ぎないという記載もあった3)4)。
これらのことから、重症軟部組織感染症と水疱形成を呈する他の疾患との鑑別に水疱形成は有用な所見であるとは言えず、水疱形成はあくまで重症軟部組織感染症を示唆する所見のひとつにすぎないと言える。しかし、蜂窩織炎様の症状であっても、水疱形成の所見があれば壊死性筋膜炎である可能性が高まるため、早急な対応が必要になるだろう。
1)AJ Headley Necrotizing et al;soft tissue infections: a primary care review. Am Fam Physician 2003; 323:328
2)David C et al. Necrotizing Soft Tissue Infections Risk Factors for Mortality and Strategies for Management. ANNALS OF SURGERY 1996 Vol.224, No. 5, 672-683
3)YS Wang et al. Staging of necrotizing fasciitis based on the evolving cutaneous features. International Journal of Dermatology 2007. 46: 1036-1041
4)Rukshini Puvanendran et al; Necrotizing fasciitis. Canadian family physician 2009; 55: 981-987
寸評:オリジナルでよいリサーチクエスチョンには答えがないか、ほとんどない。というわけで研究しましょう。
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