注意! これは神戸大学病院医学部生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員がスーパーバイズしています。そして本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。
学生に与えられたレポート作成時間は総計5時間。月曜日に「質問形式」のテーマを考え、岩田が審査し、そのテーマが妥当と判断された時点からレポート作成スタート、5時間以内に作成できなければ未完成、完成して掲載レベルであればブログに掲載としています。お尻に岩田が「寸評」を加えています。
あくまでも学生レポートという目的のために作ったものですから、レポートの内容を臨床現場で「そのまま」応用するのは厳に慎んでください。
ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
バンコマイシンによる血小板減少はどのような機序で起こり、
発症までおよび休薬により回復するまでにどれくらいの時間を要するのか
薬剤による血小板減少の頻度は年間人口100万人に10例と報告されているが(1)、血小板減少をきたす薬剤のうち頻度が高いものとしてキニーネ、トリメトプリム-スルファメトキサゾール、バンコマイシン(以下VCM)などが挙げられる(2)。今回私は、当初VCMの関与が疑われた血小板減少をきたした患者さんを担当したので冒頭のテーマを設定した。
まず、薬物による血小板減少が起こる機序としては、①薬剤依存性抗体②キニン型③フィバン型④アブキシマブ型⑤免疫複合体⑥薬剤非依存性抗体があげられ(1)、VCMについては薬剤依存性抗体による機序が知られているが、抗体が証明されなかったケースレポートも見られる(3)。抗体が検出されない症例ではどういう機序で血小板が減少しているかについて文献を検索したところ、Towhidaらの報告があった(4)。彼らは、VCMがヒト血小板表面に細胞膜スクランブリングおよびCD62P(P-セレクチン)・活性化インテグリンαIIbβ3(CD41 / 61)の発現、カスパーゼ-3活性化を誘発し、これらが血小板のアポトーシスを引き起こすと報告しており、理論的にはこれが血小板減少を加速させている可能性があるとしている。
次に発症までの時間について、典型的には薬剤による血小板数の低下は薬物に暴露されてから2週間以内に起こり、回復までの期間については、薬物代謝および排泄が腎不全または肝不全によって損なわれない限り、休薬後1~2日で血小板数の回復がみられ、1週間以内に元のレベルに戻るとされている(2)。VCM投与により血小板減少をきたした29人を対象とした研究で、Drygalskiらは投与開始後平均8日後(範囲1〜27日)に最小値を記録し、血小板レベルの回復に必要な時間は平均7.5日(範囲4〜17日)であったと報告している(5)。
以上の報告をまとめると、「VCMによる血小板減少は主に抗体が原因で、投与開始から1週間前後で起こり、休薬によって1~2日で改善し1週間前後で元のレベルまで回復するという経過をたどるものが多い」となる。文献(5)ではこのような経過をたどる理由についての言及はなかったが、機序が薬剤依存性抗体ならば血小板減少をきたすほど産生されるまでにある程度時間がかかることや、抗原である薬剤が中止されれば速やかに回復することが想像される。
文献(5)の限界点としては、対象が抗体が証明された例のみであるため、抗体が検出されない例については検討できていない。また、症例はすべて米国のものだったので直接日本に当てはめられない可能性がある。当文献では投与量や間隔、投与方法が発症に関連するかについての分析はなかったが、米国と日本では血中濃度の計算方法が異なるため、投与量による影響もあるかもしれない。さらに、文献(5)は2007年に発表されたものであるため、現在はより詳しい研究がなされている可能性がある、などが挙げられる。
今後としては、抗体が検出されない症例での血小板の挙動を調べることがより詳細な機序の解明につながるのではないかと考えられ、そのような文献は探した限りではあまり見つからなかったため、さらなる研究が期待される。
(1) Drug-Induced Immune Thrombocytopenia N Engl J Med 2007; 357:580-587
Richard H. Aster, M.D., and Daniel W. Bougie, Ph.D.
(2)Drug-induced immune thrombocytopenia UP TO DATE
(3) Vancomycin‐Induced Thrombocytopenia Without Isolation of a Drug‐Dependent Antibody. Pharmacotherapy 32,(11); November 2012; 321-325 Michael A. Ruggero Pharm.D. et al.
(4) Stimulation of Platelet Death by Vancomycin. Cell Physiol Biochem 2013;31:102-112 Syeda T. Towhida et al.
(5) Vancomycin-Induced Immune Thrombocytopenia N Engl J Med 2007; 356:904-910 Annette Von Drygalski, M.D. et al.
寸評:ウェブには挙げれませんでしたが、発症機序のイラストが秀逸でした。内容も良い議論だったと思います。
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