注意! これは神戸大学病院医学部生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員がスーパーバイズしています。そして本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。
学生に与えられたレポート作成時間は総計5時間。月曜日に「質問形式」のテーマを考え、岩田が審査し、そのテーマが妥当と判断された時点からレポート作成スタート、5時間以内に作成できなければ未完成、完成して掲載レベルであればブログに掲載としています。お尻に岩田が「寸評」を加えています。
あくまでも学生レポートという目的のために作ったものですから、レポートの内容を臨床現場で「そのまま」応用するのは厳に慎んでください。
ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
「真菌性眼内炎の治療効果判定にβ-D-グルカンは有用か?」
血清β-D-グルカン(以下BGと略す)の測定は真菌性眼内炎の診断に有用といわれている。Tanakaらの研究では46人の内因性真菌性眼内炎の90%でBG>20pg/mLがみられ76%での38度以上の発熱がみられ2つの所見をあわせることでもっとも確率の高い診断ができたとの報告がある。De PasaleらはBG上昇は真菌の残存量の代替マーカーになるが抗真菌薬投与後の解釈は不明であると報告している。確かにBGは真菌性眼内炎の診断(特に除外診断)には有用と言えそうだが効果判定に使えるのか疑問に思った。そこで抗真菌薬投与開始後のBGの推移や効果判定に用いるカットオフ値などを示した研究を探したがみつからなかった。そのため侵襲性真菌症での治療前後のBG推移についての研究を使い真菌血症を伴う真菌性眼内炎にしぼってBGの有用性を考えようと思う。(Nagaoらの報告によればカンジダ血症204人のうち54人が眼内炎と診断された)1)
S,Kooらは69人の侵襲性アスペルギウス症(IA)、40人の侵襲性カンジダ症(IC)、18人のニューモシスチス症(PCP)で抗真菌薬投与前と投与開始1~2週間後でのBGの変化と臨床結果を比べたコホート研究を行った。治療開始後、臨床的成功(血液培養で陰性または症状の軽減があったこと)をしたほとんどの症例でBGの低下は認められたものの、53人のIA、40人のICでBGの変化と臨床結果に有意差は表れなかった。この研究の問題点としては投与期間に関わらず1~2週間後でしかBG変化をみていないことが挙げられる。2)
Siraya Jaijakul らの研究ではカンジダ血症あるいは侵襲性カンジダ症と診断された患者203人に対してアニデュラファンギンを7~28日投与し、投与前と投与後のBG値の変化と臨床結果を比べた研究である。臨床的成功となった患者では投与前と投与後に平均BGの低下に有意差(p=0.03)があった。BG値の低下と臨床的成功の感度、特異度、陽性的中率、陰性的中率は62%、61%、90%、22%であった。この研究の問題点としては陽性的中率PPVの高さでBG推移と臨床結果に相関があるとしているが事前確率(全患者中で臨床的成功が得られた確率)に左右されるためPPVを根拠に有用といえないと考えた。3)
この2つの研究より侵襲性真菌症を背景とする真菌性眼内炎でBGが治療の効果判定に有用とは言い難いということが結論となる。今回、真菌性眼内炎全体での評価はできなかった。またBG<20pg/mLは1つの指標になる可能性があるが侵襲性真菌症を背景とするものでは2つの研究からはかなり厳しい基準である。(そうでない真菌性眼内炎に対しては有用かもしれない)BGを眼底所見などとあわせて1つの指標とすることで予後の判定に使えるということはありえるだろう。
・出典
1)ANTON M. KOLOM EYER, MD, PHD et al: Beta-d-glucan testing in patients with fungal endophthalmitis 2018
2)Koo S, Baden L R, Marty F M: Post-diagnostic kinetics of the (1→3)-β -D-glucan assay in invasive aspergillosis,invasive candidiasis and Pneumocystis jirovecii pneumonia. Clin Microbiol Infect 2012
3)Jaijakul S, Vazquez J A, Swanson R N, Ostrosky-Zeichner L: (1,3)-β -D-glucan as a prognostic marker of treatment response in invasive candidiasis. Clin Infect Dis 2012
寸評:「この話」と「あの話」をいっしょにすんな、の典型例ですね。そもそも治療効果の判定とするゴールドスタンダードは何?という議論をするとこの問題の難しさがわかりますね。
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