注意! これは神戸大学病院医学部生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員がスーパーバイズしています。そして本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。
学生に与えられたレポート作成時間は総計5時間。月曜日に「質問形式」のテーマを考え、岩田が審査し、そのテーマが妥当と判断された時点からレポート作成スタート、5時間以内に作成できなければ未完成、完成して掲載レベルであればブログに掲載としています。お尻に岩田が「寸評」を加えています。
あくまでも学生レポートという目的のために作ったものですから、レポートの内容を臨床現場で「そのまま」応用するのは厳に慎んでください。
ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
感染症内科レポート
「タクロリムスの用量によってどの程度感染症のリスクが上昇するのか」
タクロリムスは、脱リン酸化酵素であるカルシニューリンを阻害することでIL-2、IL-3、IFN-γ等のサイトカインの産生を抑制し、T細胞の活性化を抑制する免疫抑制剤の1つである。現在では腎・肝移植における拒絶反応の抑制や、重症筋無力症、関節リウマチなど様々な疾患の治療に用いられている(1)。では、タクロリムスの持つ免疫抑制作用によって、患者が易感染状態となってしまうことはないのだろうか。今回はタクロリムスと感染症のリスクの関係について考察することとした。
D. E. Yocumらは455人の活動性リウマチ性関節炎(RA)患者を無作為に3グループに分け、それぞれプラセボ、タクロリムス2mg、タクロリムス3mgを1日1回6ヶ月間投与する二重盲検試験を行ったが、それぞれのグループの感染症発症率に有意差は認められなかった(2)と報告している。
また、この二重盲検試験に3ヶ月以上参加したプラセボ群100人、タクロリムス2mg投与群103人、タクロリムス3mg投与群108人に新規のRA患者585人を加えた896人に対し、タクロリムス3mg/日を12ヶ月間投与した。その結果、インフルエンザ症候群が246例(27.5%)、副鼻腔炎が59例(6.6%)、尿路感染症が57例(6.4%)、咽頭炎が53例(5.9%)発生し、そのうちタクロリムスに関連していると考えられるのはインフルエンザ症候群が42例(4.7%)で、残りは全て2%未満だった。また、タクロリムスが関連していると考えられる重篤な有害事象として、肺炎5例(0.6%)、インフルエンザ症候群、感染症、尿路感染、敗血症がそれぞれ1例(0.1%)ずつ発生した(3)。
一方、P. B. Vinodらの研究によると、腎移植後の患者へのタクロリムス等の免疫抑制剤の使用は、結核、水痘帯状疱疹ウイルス、パルボウイルスB-19、ポリオーマウイルス、ノカルジア、ムコール菌症等の日和見感染症の頻度を増加させる(4)とのことだった。
これら結果から、関節リウマチなどの元々免疫抑制の少ない患者に対してタクロリムスを単剤で投与しても、投与量、投与期間ともに感染症の増加とは殆ど関係はないが、臓器移植患者など複数の薬剤で免疫を抑制している患者に対するタクロリムスの投与は、日和見感染症のリスクを増大させる可能性があると考えられる。しかし、D. E. Yocumらの研究には、認められた感染症がタクロリムスと関連していると判断した根拠が示されていないこと、感染症の発生時期や原因微生物についても言及されていないことなど問題点も多い。また、P. B. Vinodらの研究からはタクロリムスを投与した際の日和見感染症の発生数や発生頻度など、具体的な数値を得ることができなかった。
今回の考察では十分なデータを入手することができたとは言いがたいが、タクロリムスは細胞性免疫を強く抑制するため、ウイルス、真菌、原虫、細胞内寄生菌などの原因微生物による感染症の頻度がより増加すると考えられる。今後、こういった原因微生物を予想した感染症発症率について、プラセボと比較した前向き研究を行うことで今回の考察に対する答えが得られるかもしれない。
1) Kimito Kawahata. Topics: II. Immunosuppressant/antirheumatic drugs; 8. Tacrolimus. Treatment of rheumatic diseases: current status and future prospective. 2011, Vol. 100, No. 10, pp 2948-2953.
2) David. E. Yocum, et al. Efficacy and Safety of Tacrolimus in Patients with Rheumatoid Arthritis A Double-Blind Trial. ARTHRITIS & RHEUMATISM. 2003, Vol. 48, No. 12, pp 3328-3337.
3) David. E. Yocum, et al. Safety of tacrolimus in patients with rheumatoid arthritis: long-term experience. Rheumatology. 2004, Vol. 43, No. 8, pp 992-999.
4) P. B. Vinod, et al. Opportunistic infections (non-cytomegalovirus) in live related renal transplant recipients. Indian J Urol. 2009, 25(2): 161-168.
寸評:「増加」というからにはベースラインが必要なことを学びました。あと、いろんな話がある、のだけれど、あまり決定的な話はないので、タクロリムスのようなカルシニューリンは免疫抑制はあるけれどもそこまでひどくはない、という事実を学びました。程度問題・問題ですね。
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