注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員がスーパーバイズしています。そして本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。
2016年7月15日より、レポート提出のルールを変えています。学生に与えられたレポート作成時間は総計5時間。月曜日に「質問形式」のテーマを考え、岩田が審査し、そのテーマが妥当と判断された時点からレポート作成スタート、5時間以内に作成できなければ未完成、完成して掲載レベルであればブログに掲載としています。
また、未完成者が完成者より得をするモラルハザードを防ぐために、完成原稿に問題があってもあえて修正・再提出を求めていません。レポート内には構造的に間違いが散在します。学生のレポートの質はこれまでよりもずっと落ちています。そのため、岩田が問題点に言及した「寸評」を加えています。
あくまでも学生レポートという目的のために作ったものですから、レポートの内容を臨床現場で「そのまま」応用するのは厳に慎んでください。
ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
褥瘡の発症率と体重・体型は相関するか?
褥瘡とは「身体に加わった外力により骨と皮膚表層の間の軟部組織の血流が低下または停止し、その状況が一定時間持続した結果組織が不可逆的な阻血性障害に陥ったもの」1)とされる。ならば、自重が大きいほど組織を圧迫する力が強くなり、褥瘡を発症しやすくなるのか疑問に感じ、褥瘡と体重・体型の関連の有無を検討する。
Hyunらは体型・体重を客観的に評価する指標としてBMIを用い、4つの群(やせ;BMI<19、標準;19≦BMI<25、肥満;25≦BMI<40、過度肥満;40≦BMI)で褥瘡の発症率をBradenスコアと併せて比較している2)。その結果、肥満群は過度肥満群と比べ0.62倍(95%CI:0.18-0.40)発症率が低くなり、標準群と肥満群を比べると2.02倍(95%CI:1.21-3.38)も発症率が高くなった。また、やせ群は肥満群と比して3.26倍(95%CI:1.79-5.91)と高い発症率を示した。
Kotterらも「活動性」と「可動性」により層別化した患者群をBMIに基づいてグループ分けし(過度やせ;BMI<16、中度やせ;16≦BMI<17、軽度やせ;17≦BMI<18.5、標準;18.5≦BMI <25、肥満1度;25≦BMI<30、肥満2度;30≦BMI<35、肥満3度;35≦BMI<40、肥満4度;40≦BMI)、BMIと褥瘡の発症率を調べている3)。Kotterらは12群を比較する際に99%CIを用い、この信頼区間が重ならないことで統計学的有意差を示した。結果はBMI<18.5のやせ3群は”浅い”褥瘡の発症率が4.6-6.2%と、標準、肥満1度、肥満2度の3群が1.7-2.6%しか発症しなかったのに比べ高くなり、やせ3群の”深い”褥瘡の発症率は2.8-4.0%と、標準群と肥満2度群の0.6-1.0%に比べ明らかに高くなった。
上記2つの報告は年齢、原因疾患など他の患者背景を考慮しているものではない。そういった点で制限はあるものの、褥瘡の発症率と体重・体型の相関に関してある程度の傾向を読み取ることは可能である。
また、Watanabeらは健康な成人女子30名を、肥満度を基にして体格別(肥満群,標準群,やせ群)に各10名ずつの群に分け,板上における腰部の体圧分布を測定したのである。その結果、腰部における総荷重は肥満群で有意に大きく(p<.05)、受圧範囲はやせ群で有意に狭い(p<.01)という結果になった。
これらの研究を踏まえると、褥瘡の発症率と体重・体型は相関すると考えられる。特に、低いBMIは褥瘡のハイリスク因子と言えるであろう。これはやせ型の人間は皮下組織が薄くなっている一方で、受圧範囲が狭くなっているために組織が圧迫を受けやすく、虚血状態に陥り易いためと考えることができる。逆に、BMIの高い肥満型は褥瘡の発症率に関連するか未だ結論が出ていない3)。自重が大きいため虚血状態になりやすいとも考えられるが、組織が肥厚するために圧迫を受けにくいとする仮説も存在する。しかし、高すぎるBMIの肥満群は褥瘡の発症率と相関すると言えるであろう。これは自重が大きくなり過ぎて動けなくなっていることが理由として考えられる。BMIが高すぎる、または低すぎる寝たきり患者にはよく注意を払う必要がある。
【参考文献】
創傷・熱傷ガイドライン委員会報告―2:褥瘡診療ガイドライン
- Body Mass Index and Pressure Ulcers: Improved Predictability of Pressure Ulcers
Intensive Care Patients; Am J Crit Care. 2014 Nov;23(6):494-500
Sookyung Hyun ,Elizabeth R. Lenz, RN, PhD and etc
- Weight and pressure ulcer occurrence: A secondary data analysis; Int J Nurs Stud. 2011 Nov;48(11):1339-48
Kottner J, Lahmann N and etc.
(4) 褥瘡予防に関する基礎的研究 [II]体格別成人女子の仙骨部体圧分布測定;日本看護科学会誌
J.Jpn.Acad.Nurs.Sci., Vol.10, No.2, pp.37~45, 1990
渡邉順子・江幡美智子・永田量子
寸評:褥瘡って難しいですよね。いろんな要素が褥瘡を作っており、簡単な分析がしにくいところです。レポートの結論は仮説と真逆になりましたが、それがいいんです。そうやって人は学んでいくのだから。
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