注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員が吟味し、医学生レベルで合格の域に達した段階 で、本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。内容の妥当性については教員が責任を有していますが、学生の私見やロジックについてはできるだ け寛容でありたいとの思いから、(我々には若干異論があったとしても)あえて彼らの見解を尊重した部分もあります。あくまでもレポートという目的のために 作ったものですから、臨床現場への「そのまま」の応用は厳に慎んでください。また、本ブログをお読みの方が患者・患者関係者の場合は、本内容の利用の際に は必ず主治医に相談してください。ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
Bartonella spp.による感染性心内膜炎の診断へのアプローチ
感染性心内膜炎(IE)の診断は、Duke基準に基づいて行われ、その感度は90%、特異度は>95%である。血液培養はDuke基準の大項目に含まれる重要な検査項目であるが、IEの2.5~31%は血液培養陰性である[1]。血液培養陰性のIEの起炎菌としてHaemophilus、Actinobacillus、Cardiobacterium、Eikenella、Kingella、Abiotrophia spp.、Brucella spp.、Bartonella spp.、Legionella spp.、Mycoplasma spp.、Coxiella burnetiiなどが報告されており、Bartonella spp.は2%を占める[1]。IEの起炎菌となるBartonellaとしてはこれまでB. quitana、B. henselae、B. elizabethae、B. vinsonii subsp. Berkhoffiiが報告されているが、殆どは前2種である[2]。Bartonellaの培養には特殊な環境と長い培養期間を要し、血液培養が陽性になった症例は25%と報告されている[2]。そのため、起炎菌の同定には血清学的検査や分子学的検査が必要である。
IEと診断されている患者でBartonella属に対するIgG抗体価が800倍以上の場合、陽性的中率は95%と報告されている[3]。しかし、B. quintanaとB. henselaeを鑑別する場合には信頼性に欠ける可能性がある、Coxiella burnetiiやChlamydia spp.が起炎菌の場合に交差反応を示すことがあるなどの問題がある[3]。また、IgG抗体価が800倍以上というだけでは、IEとBartonellaによる菌血症や猫ひっかき病などの他疾患を鑑別出来ない。以上のことから、抗体価測定はIEと診断された患者の起炎菌の同定にはある程度有用であるが、IEの診断自体には有用ではない。
Bartonella属のどの種か同定することが可能な検査としては、16S rRNA配列や、Bartonellaに特異的な16S-23S rRNA配列を用いたPCRがある [4]。弁組織を検体とした場合の感度は95%と報告されており[3]、診断に有用である。全血、血漿、血清を検体とすることも可能であるが、Bartonella IEと診断された患者の血清を検体としたPCRを行ったstudyによると、感度58%、特異度100%であり、感度は弁組織を検体とした場合に劣る[5]。また、これらの検体ではIEと他疾患の鑑別は出来ない。以上のことから、PCRは弁組織を採取出来た症例での起炎菌同定には有用であるが、血液検体のみでのIE診断には有用ではない。
血清が唯一の検体である場合、ウェスタンブロットが有用である。バンドの検出率はB. quitana IEで97%、B. quintana菌血症で9%、B. henselae IEで100%、猫ひっかき病で0%との報告がある[6]。したがって、バンドが検出された場合、IEの可能性が高い。
これらの検査は、症例や検体の種類にもよるが、特異度は高く確定診断に繋がる。IEが疑われる症例で血液培養が陰性であった場合は、リスクファクターを適切に評価し、症例や検体に応じて適切な検査を追加する必要がある。また逆に、Bartonellaの感染はあるがフォーカスがはっきりしない場合には、ウェスタンブロットが有効である。
References
[1] Brouqui P, Raoult D. Endocarditis due to rare and fastidious bacteria. Clin Microbiol Rev 2001; 14: 177-207.
[2]Raoult, D., P. E. Fournier, et al. Diagnosis of 22 new cases of Bartonella endocarditis. Ann. Intern. Med. 1996; 125: 646–652
[3] Fournier PE, Lelievre H, et al. Epidemiologic and clinical characteristics of Bartonella quintana and Bartonella henselae endocarditis: a study of 48 patients. Medicine (Baltimore) 2001; 80: 245-51
[4]Min Hee Lim, Doo Ryeon Chung, et al. First Case of Bartonella Quintana Endocarditis in Korea. J Korean Med Sci. 2012; 27: 1433-1435
[5]Zeaiter Z, Fournier PE, et al. Diagnosis of Bartonella endocarditis by a real time nested PCR assay using serum. J Clin Microbiol 2003; 41:919
[6]Pierre Houpikian, Didier Raoult. Western Immunoblotting for Bartonella Endocarditis. Clinical And Diagnostic Laboratory Immunology, Jan.2003; 95-102
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