注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員が吟味し、医学生レベルで合格の域に達した段階 で、本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。内容の妥当性については教員が責任を有していますが、学生の私見やロジックについてはできるだ け寛容でありたいとの思いから、(我々には若干異論があったとしても)あえて彼らの見解を尊重した部分もあります。あくまでもレポートという目的のために 作ったものですから、臨床現場への「そのまま」の応用は厳に慎んでください。また、本ブログをお読みの方が患者・患者関係者の場合は、本内容の利用の際に は必ず主治医に相談してください。ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
CMV感染症の診断におけるCMV pp65抗原検査法の有用性
ヒトサイトメガロウイルス(CMV)感染症は多くの場合、HIV感染症や骨髄または臓器移植後の患者にみられる。1)重篤な合併症を引き起こす可能性があるため、CMV感染症の発症の予知、早期診断に対応できるようなCMV pp65抗原検査法は日本では広く実施されてきた。
1995年にイギリスのWythenshawe Hospitalで心臓または肺移植後の患者32人を対象にした調査では、CMV pp65抗原検査陽性(pp65陽性細胞の検出)によるCMV related illness診断の感度100%、特異度93.7%であり、陽性的中率94.1%であった。CMV pp65抗原high level(>50個pp65陽性細胞/2×105個白血球)の11例では、CMV invasive diseaseに対する診断の陽性的中率は45.5%(5例/11例)であったが、陰性的中率は100%に達した。つまり、CMV pp65抗原検査法を通して除外診断、現段階でCMV invasive disease発症する可能性の低い患者を見極められる可能性を示唆している。さらに、CMV invasive diseaseを発症した5例の患者のpp65陽性細胞数を残りの27例と比較して有意に高かった(median 200 cells、range 73~2647 vs median 0 cells、range 0~1386)(median difference = 200 cells、 p<0.005)。またCMV pp65抗原検査陽性の場合において、臨床的なCMV感染症状の出現よりもpp65陽性細胞の検出の方が大幅に早い(median 65 days、range 19~142 vs median 35 days、range 13~93)(median difference = 28 days、 p<0.005)という報告もあった。2)
一方、2003年にフランスのGroupe Hospitalier Pitie-Salpetriereにおいて心臓移植後の患者119人を対象にした研究によると、85例が平均的に移植後31日目に(median 31 days、range 16~272)CMV pp65抗原検査で陽性が出ており、その中のCMV pp65抗原high levelの(>50個pp65陽性細胞/2×105個白血球)41例では、CMV invasive diseaseに対するCMV pp65抗原検査の感度および陰性的中率は100%、特異度は79%、陽性的中率は49%であった。3)
以上より、臓器移植後、免疫抑制状態を背景として持つ患者の場合、CMV pp65抗原検査はCMV related illnessに対し、利点が2つあると考えられる。まず、pp65陽性細胞数が患者の発症リスクと関係しており、pp65抗原の測定を通じて早期にCMV invasive diseaseを予知することが可能なのかもしれない。次に、感度、陰性的中率ともに高く、CMV invasive diseaseを発症する可能性の低い患者において不必要な抗ウイルス薬の投与によるリスク回避や医療コストの節約、耐性ウイルス発現の防止につながると考えられる。ただし、本検査の陽性的中率が45.5%、49%と報告されており、またpp65陽性細胞が1386個を検出しても実際にCMV invasive diseaseを発症するに至らない症例があったため、CMV感染症の確定診断に用いられる検査であるとは言えない。
1)、M. Yamashita, T. Ishii, et al: Incidence and clinical features of cytomegalovirus infection diagnosed by cytomegalovirus pp65 antigenemia assay during high dose corticosteroid therapy for collagen vascular diseases.
2)、J J Egan, L Barber et al: Detection of human cytomegalovirus antigenaemia: a rapid diagnostic technique for predicting cytomegalovirus infection/pneumonitis in lung and heart transplant recipients.
3)、Sénéchal M, Dorent R et al: Monitoring of human cytomegalovirus infections in heart transplant recipients by pp65 antigenemia. Clin Transplant. 2003 Oct;17(5):423-7.
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