注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員が吟味し、医学生レベルで合格の域に達した段階 で、本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。内容の妥当性については教員が責任を有していますが、学生の私見やロジックについてはできるだ け寛容でありたいとの思いから、(我々には若干異論があったとしても)あえて彼らの見解を尊重した部分もあります。あくまでもレポートという目的のために 作ったものですから、臨床現場への「そのまま」の応用は厳に慎んでください。また、本ブログをお読みの方が患者・患者関係者の場合は、本内容の利用の際に は必ず主治医に相談してください。ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
胆道再建術後の胆管炎の発症頻度と再発リスク
胆管空腸吻合など胆道再建術にともなう合併症の一つとして、胆管炎があり、しばしば致死的であることが知られている1。胆道再建が行われる疾患としては、胆管癌、胆嚢癌、乳頭部癌、膵癌などがあり、再建術式としては、胆管空腸吻合術、胆管十二指腸吻合術、肝膵十二指腸同時切除などがある。術後胆管炎の発生原因としては、空腸吻合部の狭窄に伴う胆汁の流出障害とファーター乳頭が取り除かれてしまうことに伴う逆行性のものがある2。
1978年から1990年の間に、胆管径12mm以上の総胆管結石にたいする胆管空腸吻合術を行った66人と胆管十二指腸吻合術を行った64人の患者計130人を対象にしたRCTでは、フォローアップ期間中に10.8%(13人)に胆管炎を認めた3。平均フォローアップ期間は29ヶ月(18ヶ月〜40ヶ月)であった。また、1967年から1997年に行われた、胆道腸管吻合術(経十二指腸括約筋形成術、胆管十二指腸吻合術と胆管空腸吻合術)による胆道再建を行った1003人の患者を対象にした後ろ向き研究でも胆道再建後の胆管炎発生頻度は10.4%(105人)であり4、条件は異なるものの文献3の報告と同程度の発生頻度であった。
文献3の研究では術式ごとの胆管再建後胆管炎の原因は異なり、胆管空腸吻合術では、吻合部狭窄によるものが3人、結石による総胆管閉塞によるものが1人、原因不明であるものが3人で、胆管十二指腸吻合術では、残存下部胆管に食物や汚泥が貯留することにより引き起こされる胆管炎であるsump症候群が3人、吻合部狭窄によるもの1人、原因不明であるものが2人であった3。個々の原因は異なるものの、胆管空腸吻合術での術後胆管炎の発生頻度は11.2%(7人/62人)、胆管十二指腸吻合術では10.3%(6人/58人)と術式による発生頻度に有意な差は見られない。
文献3の研究では、最長でも40ヶ月のフォローであり、長期間にわたる胆管炎の発症ならびに胆管炎の再発の評価ができない。文献4の平均フォローアップ期間は129.6ヶ月(23ヶ月〜240ヶ月)であり、より長期の胆道再建術後胆管炎合併リスクを評価することができる。この研究においては、フォローアップ期間中の一人の患者の平均胆管炎発症回数は3回と、術後胆管炎は再発を起こしやすいといえる4。こうした再発を繰り返す胆管炎に対する治療としては、それが胆石によるものであれば胆嚢摘出術を考慮し、胆道の狭窄(吻合部の狭窄)によるものであれば、1度目の手術による癒着の有無や患者の予後を考慮して外科的手術やステント留置を考慮する5。
まとめ
・胆道再建術後の胆管炎の発症頻度は10%程度
・術式によって胆管炎の原因は変わるが、発症頻度は変わらない。
・一度胆管炎を発症した患者では再発のリスクがある。
参考文献
- Takada T, Strasberg SM, Solomkin JS, et al. Tokyo Guidelines Revision Committee. TG13: miscellaneous etiology of cholangitis and cholecystitis. J Hepatobiliary Pancreat Sci. 2013;20:97–105.
- 急性胆道炎の診療ガイドライン作成出版委員会 編(厚生労働科学研究医療技術評価総合研究事業急性胆道炎の診療ガイドラインの作成、普及に関する研究会、日本腹部救急医学会、日本胆道学会、日本肝胆膵外科学会)科学的根拠に基づく急性胆管炎・胆嚢炎の診療ガイドライン第一版、医学図書出版、東京、2005.
- Panis Y, Fagniez PL, Brisset D, et al. Long term results of choledochoduodenostomy versus choledochojejunostomy for choledocholithiasis. The French Association for Surgical Research. Surg Gynecol Obstet. 1993;177:33–7.
- Tocchi A, Mazzoni G, Liotta G, Lepre L, Cassini D, Miccini M. Late development of bile duct cancer in patients who had biliary-enteric drainage for benign disease: a follow-up study of more than 1,000 patients. Ann Surg. 2001;234:210–214.
- Nezam H Afdhal, MD, FRCPI.(2014). Acute cholangitis. In UpToDate, Stephen B Calderwood, MD(Ed), UpToDate, Waltham, MA
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