注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員が吟味し、医学生レベルで合格の域に達した段階 で、本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。内容の妥当性については教員が責任を有していますが、学生の私見やロジックについてはできるだ け寛容でありたいとの思いから、(我々には若干異論があったとしても)あえて彼らの見解を尊重した部分もあります。あくまでもレポートという目的のために 作ったものですから、臨床現場への「そのまま」の応用は厳に慎んでください。また、本ブログをお読みの方が患者・患者関係者の場合は、本内容の利用の際に は必ず主治医に相談してください。ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
抗菌薬治療においてde-escalationは患者の死亡率を減少させるか
抗菌薬治療の原則は大きくわけて4つあり、経験的治療(empiric therapy)原因限定治療(definitive therapy)予防的抗菌薬投与(prophylactic therapy)先制攻撃的投与(preemptive therapy)である。感染症の初期治療において診断の時点で起因菌が判明していない場合、起因菌の可能性がある微生物全てに対して効果が期待できるとされる広域抗菌薬による治療を行う。これを経験的治療という。また起因菌が判明した場合、その起因菌に有効な狭域抗菌薬による治療を行う。これを限定的治療という。De-escalationは経験的治療から限定的治療に変更することをいう。
今回BSL実習を受けde-escalationの概念を知り、合理的な概念だと思うと同時に本当に有用なのか疑問に感じた。今回は患者の予後の改善の一つの指標として、死亡率の観点からde-escalationが有用か検証していきたい。
Garnacho-Monteroら(2)の報告は、ICUに入室した重症敗血症患者と敗血症性ショック患者712例を登録した前向き観察研究である。そのうち実際には628例が適応した。(84例は培養結果が判明する前に亡くなった)de-escalationは219例(34.9%)に適応され、多変量解析では院内死亡に関連した独立因子は敗血症ショック、培養結果確定日、SOFAスコア、不適切な初期抗菌薬治療であったのに対しde-escalationが院内死亡を防ぐのに関連した因子であった(OR 0.58, 95%CI 0.36-0.93)。適切な経験的抗菌薬治療を受けた403例の解析では、培養結果確定日のSOFAスコアが死亡関連因子であったのに対しde-escalationが死亡保護関連因子であった(OR 0.54, 95%CI 0.33-0.89)。傾向スコア調整ロジスティック回帰モデルにおいてもまた90日予後でもde-escalationは保護因子であった。これらのことから、重症敗血症および敗血症性ショックにおけるde-escalationは低い死亡率と関連していたことがわかった。
Turzaら(2)の報告は、2009年8月から2011年12月の間の1次,3次医療外科のICUでの感染治療レビューのうちde-escalation治療かそうでないかで分類し解析した。解析した2658例のうちde-escalation群が995例でnon-deescalation群が1663例であった。患者の性別(男性60%対男性58% P=0.4)と年齢(55±16歳対56±16歳 P=0.1)はほぼ同じ条件で検証した。するとde-escalation治療群とnon-deescalation治療群で大きな死亡率の差が認められた(15 ± 13 d 対 13 ± 13, p = 0.0001)多変量解析では、de-escalation治療群が死亡率を減少させた。(OR = 0.69; 95%CI, 0.49-0.97; p = 0.04)
以上の結果から考察すると抗菌薬のde-escalationは死亡率に関しては有意に下げられると考えられる。患者の死亡率を下げるという観点から抗菌薬のde-escalationは積極的に取り入れるべきである。
reference
1)J. Garnacho-Montero, A. Gutiérrez-Pizarraya, et al. De-escalation of empirical therapy is associated with lower mortality in patients with severe sepsis and septic shock; Intensive Care Medicine 2014; 40: 32-40
2)Turza KC, Politano AD, et al. De-Escalation of Antibiotics Does Not Increase Mortality in Critically Ill Surgical Patients; Surg Infect (Larchmt) 2016; 17(1):48-52
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