注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員が吟味し、医学生レベルで合格の域に達した段階 で、本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。内容の妥当性については教員が責任を有していますが、学生の私見やロジックについてはできるだ け寛容でありたいとの思いから、(我々には若干異論があったとしても)あえて彼らの見解を尊重した部分もあります。あくまでもレポートという目的のために 作ったものですから、臨床現場への「そのまま」の応用は厳に慎んでください。また、本ブログをお読みの方が患者・患者関係者の場合は、本内容の利用の際に は必ず主治医に相談してください。ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
この疾患には免疫不全患者が多く、報告では無作為に抽出された1000件以上の報告のうち60%以上が免疫不全状態(慢性肉芽種性疾患、臓器移植、AIDSを含む)を背景にもつ患者におけるものであった(1)。ノカルジア感染症治療の第1選択薬はST合剤であるが、貧血、血小板減少、顆粒球減少症などの造血障害、皮疹、高K血症などの重篤な副作用やサルファ剤にアレルギーを持つ患者が存在するため治療が継続できない場合がある(2)。またin vitroではN.farcinicaはST合剤に耐性を持つため選択されない(1)。以上からST合剤を使用できない場合におけるノカルジア感染症についてどのように代替療法を選択すべきなのか疑問に思い文献をもとに検証した。
In vitroではアミカシン、アモキシシリン/クラブラン酸、イミペネム、セフトリアキソン、セフォタキシム、セフロキシム、リネゾリド、モキシフロキサシン、クラリスロマイシン、ミノサイクリン、チゲサイクリンが感受性を示すがそのうちアミカシンが最も高い活性を示す(1)。アミカシンはN.transvalensisを除く全てのノカルジア属に対して最も活性が高いと報告されており、セフトリアキソン、セフォタキシム、セフロキシムはN.farcina, N.transvalensis, N.otitidiscaviarumを除くノカルジア属に対して活性がある。セフォタキシムとイミペネムに感受性のある群では併用療法によるシナジー効果が確認されており、セフロキシムとアミカシンの併用でも同様に確認されている。
動物モデルではノカルジア肺炎、脳ノカルジア症のマウスに対してはアミカシンとイミペネムがST合剤より有効であったと報告されている(1)。
症例報告では、AIDSを背景に有するノカルジア肺炎の32歳の患者に対し、副作用のためにST合剤からアミカシンとミノサイクリンの併用療法に切り替えたことで治療が奏功している(3)。また同種腎移植後にノカルジア肺炎とサイトメガロウイルス網膜炎を発症した50歳の患者に対してセフトリアキソンの静脈投与により症状が改善し、その後経口薬のミノサイクリンに切り替え治療が行われた (4)。その他、肝移植後にノカルジア肺炎を発症した45歳の患者の症例ではST合剤を投与したが治療効果が見られず、感受性試験を行った結果に基づいてリネゾリドを投与した後に症状が改善している(5)。
今回調べたところ、ノカルジア感染症に対するST合剤以外のデータは乏しく、代替療法の大規模な臨床試験は見られなかった。しかし、現在の代替療法選択についてはアミカシン、セフトリアキソン、ミノサイクリン、リネゾリドのin vitroでの感受性治療効果に基づいて使用した上記の症例報告があるため、そのような報告に基づいてこれらの薬剤を使用するのは一つの方法だと言える。症例報告に基づいているため、上記の薬剤で治療を行う場合には慎重に経過をフォローしていくことが最も重要だと考えた。
参考文献
1.Mandell Douglas and Bennett's Principles and Practice of Infectious Diseases 7th Edition
2.レジデントのための感染症診療マニュアル 第3版
3.Rodriguez JL, et al Pulmonary nocardiosis in the acquired immunodeficiency syndrome. Diagnosis with bronchoalveolar lavage and treatment with non-sulphur containing drugs. Chest 1986 Dec;90(6):912-4.
4.Mohan P,et al Successful treatment of Nocardia pneumonia with cytomegalovirus retinitis coinfection in a renal transplant recipient Int Urol Nephrol (2013) 45:581–585
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