注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員が吟味し、医学生レベルで合格の域に達した段階 で、本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。内容の妥当性については教員が責任を有していますが、学生の私見やロジックについてはできるだ け寛容でありたいとの思いから、(我々には若干異論があったとしても)あえて彼らの見解を尊重した部分もあります。あくまでもレポートという目的のために 作ったものですから、臨床現場への「そのまま」の応用は厳に慎んでください。また、本ブログをお読みの方が患者・患者関係者の場合は、本内容の利用の際に は必ず主治医に相談してください。ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
ニューキノロン系抗菌薬はESBL産生菌による菌血症の治療に有用か
ESBL (extended spectrum beta-lactamase)産生菌による感染症はESBL非産生菌によるものと比べて死亡率が高く重症化しやすいことから、ここ20年来の重要なトピックの1つとなっている*1。現在、このESBL産生菌感染症の治療にはカルバペネム系の抗菌薬が、生存率や細菌学的な治癒について優れると推奨されている*2,3。しかし、カルバペネム系抗菌薬は非常に広域なスペクトラムを有し、その乱用によって耐性菌の出現、増加が懸念される。今回はニューキノロン系抗菌薬がカルバペネム系抗菌薬の代替薬として有用性があるのか、文献を検索することで検証してみたい。
Ching-Lung Loらによって行われた後ろ向き研究*4では、398人のESBL産生E. coli / K. pneumoniaeによる菌血症の患者を、感受性が判明した後にDefinitive therapyとしてニューキノロン系抗菌薬で治療した24人と、カルバペネム系抗菌薬で治療した275人の群に分けられた。両群は年齢、合併症、感染源臓器、菌血症の重症度に差はない状態であった。研究の結果、ニューキノロン系抗菌薬治療群とカルバペネム系抗菌薬群の30日死亡率はそれぞれ8.3%と23.3%であり(p=0.12)、多変量解析ではニューキノロン系抗菌薬投与群の方が良い結果となった(OR, 0.18; 95%CI, 0.03-0.92; p=0.04)。さらに、両群の生存者の菌血症発症後の在院日数を比較すると、ニューキノロン系抗菌薬投与群の方が短い結果となった(27.5±26.9 days vs. 52.0±77.5 days; p=0.14)。
一方で、ニューキノロン系抗菌薬のカルバペネム系抗菌薬に対する劣性を示す研究もある。Andrea EndimianiらはESBL産生K. pneumoniaeによる菌血症患者35例を集め、そのうちシプロフロキサシンに感受性のある17例を対象に後ろ向き研究*5を行った。イミペネムを投与した群10例のうち8例でcomplete response(発熱、白血球数の正常化、感染兆候の消失)、残り2例がfailure(感染兆候の改善も増悪もない)となった。対して、シプロフロキサシンを投与した7例中2例のみがpartial response(発熱、白血球数、感染兆候の改善)、5例がfailureとなった(p=0.03)。
以上、2つの文献を論じたが、1つ目の研究ではカルバペネム系抗菌薬を投与する群に免疫不全が多かったこと、2つ目の研究ではシプロフロキサシンのMICがsusceptibility breakpointに近いことが結果に影響したと考えられる。上記の研究からは、ニューキノロン系抗菌薬がカルバベネム系抗菌薬の代替薬としての有用性があるとは断言できず、臨床現場で積極的に使用するには至らないという結論に至った。
《参考文献》
*1: Bradford PA. Extended-spectrum beta-lactamases in the 21st century: characterization, epidemiology, and detection of this important resistance threat. Clin Microbiol Rev 2001;14: 933e51.
*2: Ramphal R et al. Extended-spectrum beta-lactamases and clinical outcomes: current data. Clin Infect Dis 2006;42: S164e72.
*3: Pitout JDD et al. Extended-spectrum beta-lactamase- producing Enterobacteriaceae: an emerging public-health concern. Lancet Infect Dis 2008;8:159e66.
*4: Ching-Lung Lon et al. Fluoroquinolone therapy for bloodstream infections caused by extended-spectrum beta-lactamase-producing Escherichia coli and Klebsiella pneumoniae. J Microbiol Immunol Infect. 2015 Sep 9. pii: S1684-1182(15)
*5: Endimiani A. et al. Bacteremia due to Klebsiella pneumoniae isolates producing the TEM-52 extended-spectrum beta- lactamase: treatment outcome of patients receiving imipe- nem or ciprofloxacin. Clin Infect Dis 2004;38:243e51.
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