注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員が吟味し、医学生レベルで合格の域に達した段階 で、本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。内容の妥当性については教員が責任を有していますが、学生の私見やロジックについてはできるだ け寛容でありたいとの思いから、(我々には若干異論があったとしても)あえて彼らの見解を尊重した部分もあります。あくまでもレポートという目的のために 作ったものですから、臨床現場への「そのまま」の応用は厳に慎んでください。また、本ブログをお読みの方が患者・患者関係者の場合は、本内容の利用の際に は必ず主治医に相談してください。ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
左心補助人工心臓関連感染の予防に効果的な抗菌薬以外の方法は?
左心補助人工心臓(left ventricular-assisted device; LVAD)は, 重症心不全患者において心臓のポンプ機能を補助する装置の一つである(1). LVAD移植患者で問題となる合併症に, ドライブライン感染やポンプポケット感染といったLVAD関連感染がある. LVAD関連感染は患者の入院期間と死亡率を上昇させる(2)ため, 感染のコントロールが重要である. 手術部位感染の予防策としてまず抗菌薬投与を考えたが, ガイドラインやレビューでは具体的にどの抗菌薬をどのくらいの期間用いるべきかについて統一された見解は無かった. 必要以上の抗菌薬投与は耐性菌増加などの問題をはらんでいることもあり, 抗菌薬以外の方法でLVAD感染に有効な予防策がないか調べてみたところ, LVAD移植時の手術手技やドライブラインの清潔を保つことによってLVAD関連感染の発生率を下げることができるとする報告があったことから, これらについて調べてみた.
まず, Ushijimaら(3)の研究では, 体外式LVADのカニューレの設置場所によるLVAD感染の発生率を比較している. 体外式LVAD移植を施行した患者18人(男性16人, 年齢 34.2歳, LVAD移植期間 696±412日)のうち, LVADカニューレを腹腔内に留置した群(intraperitoneal: IP群) 11人(男性10人, 年齢 34.2歳, LVAD移植期間 853±412日)と, LVADカニューレを腹腔外の皮下に留置した群(extraperitoneal: EP群) 7人(男性 6人, 年齢36.8歳, 施行期間450日±351日)を比較した結果, 移植後6ヶ月間と1年間のLVAD関連感染の無発生率は, IP群でそれぞれ100%と60%, EP群で38%と19%と, どちらもIP群で有意に高かった(p = 0.02). さらに, LVAD関連感染が診断されてからの6ヶ月後と1年後における生存率は, IP群でそれぞれ83%と83%, EP群で67%と22%と, どちらもIP群で有意に高かった(p = 0.03).
一方, Schibilskyら(4)の研究では, 植込式LVADのドライブラインの設置方法について、ドライブラインを短く直線に設置した従来法と, ドライブラインを長く曲げて設置した修正法のドライブライン皮膚貫通部感染の発生率を比較していた. 移植を施行した患者43人のうち, 従来法を施行した患者11人と, 修正法を施行した患者32人のドライブライン皮膚貫通部感染を比較した結果, 従来法のLVAD関連感染発生率は1.148 /1,000人年, 修正法の発生率は0.638 /1,000人年であり, 有意差はなかった(p=0.22).
また, Wusら(5)の後向き研究では, 術前抗菌薬投与と周術期抗菌薬投与を行ったLVAD移植患者86人をのうち, ドライブライン皮膚貫通部の被覆材を1日1回交換した群(39人[57%])と1週間に3回交換した群(15人[22%]), 1週間に1回交換した群(8人[12%])を比較した結果, 全ての患者で入院期間中のドライブライン感染が見られず, 入院期間にも差がなかった(29.49日 vs. 28.35日 vs. 27.61日, p = 0.898).
以上より, 体外式LVADでは, デバイスに接続されるカニューレを腹腔内に留置することによってLVAD関連感染を有意に減少させた. 一方, 植込式LVADでは, 体内に留めるドライブラインの長さはドライブライン感染の発生に影響しない結果となった. ただし, 修正法は従来法に比べLVAD関連感染の発生を減少させる傾向があったため, 症例数を増やした大規模な研究が期待される. いずれのデバイスも, デバイスに付属するカニューレやドライブラインをできるだけ皮下に留めることでLVAD関連感染の発生率を減らすことが可能と考えられる. 逆に言えば, カニューレやドライブラインの外界への暴露はLVAD感染のリスクを上げると言えるが, これらの清潔を保つために皮膚貫通部のドレッシングを頻回に交換する必要はなく, 抗菌薬投与を行っておれば1週間に1回程度で十分と考えられる.
- 志賀卓弥, デバイス: LVAD; 循環器急性期診療, 香坂 俊, 239-254, メディカル・サイエンス・インターナショナル, 2015
- Patel H, et al, Complications of Continuous-Flow Mechanical Circulatory Support Devices; Clinical Medicine Insights Cardiology. 2015; 9(Suppl 2): 15–21.
- Ushijima T, et al, Operative modification for the prevention of device-related infection during NIPRO extracorporeal left ventricular assist device implantation; Journal of Artificial Organs 2014 Sep;17(3):220-7.
- Schibilsky D, et al, Double tunnel technique for the LVAD driveline improved management regarding driveline infections; ASAIO J. J Artif Organs (2012) 15:44–48
- Wus L, et al. Left ventricular assist device driveline infection and the frequency of dressing change in hospitalized patients; Heart Lung. 2015 May-Jun;44(3):225-9.
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