注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員が吟味し、医学生レベルで合格の域に達した段階 で、本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。内容の妥当性については教員が責任を有していますが、学生の私見やロジックについてはできるだ け寛容でありたいとの思いから、(我々には若干異論があったとしても)あえて彼らの見解を尊重した部分もあります。あくまでもレポートという目的のために 作ったものですから、臨床現場への「そのまま」の応用は厳に慎んでください。また、本ブログをお読みの方が患者・患者関係者の場合は、本内容の利用の際に は必ず主治医に相談してください。ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
感染症内科BSLレポート
ニューモシスチス肺炎予防におけるアトバコンの有用性
ニューモシスチス肺炎(PCP)は、Pneumocystis jiroveciiを原因菌とし、免疫不全患者に発症する日和見感染症である。ニューモシスチス肺炎予防の第一選択薬はスルファメトキサゾール・トリメトプリム配合剤(ST合剤)であり、その有効性が示されている。(1)しかし、ST合剤は副作用のため代替薬の使用を検討する場合がある。今回、ST合剤の代替薬であるアトバコンの、ニューモシスチス肺炎予防に対する有用性について検討した。
El-Sadr WMらは、ST合剤を使用できないHIV陽性患者1057例に対し、ニューモシスチス肺炎予防目的にアトバコン(1500mg)とダプソン(100mg)を用いたランダム化比較試験を行った。本試験の中央追跡期間は27ヵ月で、PCP発症率はアトバコン15.7%, ダプソン18.4%(P=0.20)と有意差はなかった。(2)
Chan Cらは、ST合剤を使用できないHIV陽性患者549例に対し、ニューモシスチス肺炎予防目的に低用量アトバコン(750mg)、高用量アトバコン(1500mg)、吸入ペンタミジンを用いた多施設ランダム化比較試験を行った。本試験の中央追跡期間は11.3ヵ月で、PCP発症率は、低容量アトバコン26%、高用量アトバコン22%、吸入ペンタミジン17%であった。低用量アトバコンのPCP発症率がやや高い傾向にあったが、統計学的有意差はなかった(P=0.14)。 (3)
以上から、ST合剤を使用できないHIV陽性患者におけるニューモシスチス肺炎予防に関しては、アトバコンは他の代替薬と比較しても劣らず、予防薬の一つの選択肢となりえる。しかし、非HIV患者に対し行われたランダム化比較試験は少なく、今後は非HIV患者におけるニューモシスチス肺炎予防に対する大規模試験が望まれる。
【参考文献】
(1) レジデントのための感染症診療マニュアル第3版 青木 眞/医学書院
(2) El-Sadr WM et al, Atovaquone compared with dapsone for the prevention of Pneumocystis carinii pneumonia in patients with HIV infection who cannot tolerate trimethoprim, sulfonamides, or both. Community Program for Clinical Research on AIDS and the AIDS Clinical Trials Group. N Engl J Med. 1998 Dec 24;339(26):1889-95.
(3) Chan C et al, Atovaquone Suspension Compared with Aerosolized Pentamidine for Prevention of Pneumocystis carinii Pneumonia in Human Immunodeficiency Virus–Infected Subjects Intolerant of Trimethoprim or Sulfonamides, J Infect Dis. 1999 Aug;180(2):369-76.
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