注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員が吟味し、医学生レベルで合格の域に達した段階 で、本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。内容の妥当性については教員が責任を有していますが、学生の私見やロジックについてはできるだ け寛容でありたいとの思いから、(我々には若干異論があったとしても)あえて彼らの見解を尊重した部分もあります。あくまでもレポートという目的のために 作ったものですから、臨床現場への「そのまま」の応用は厳に慎んでください。また、本ブログをお読みの方が患者・患者関係者の場合は、本内容の利用の際に は必ず主治医に相談してください。ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
帝王切開を受ける妊婦の予防的抗菌薬投与のタイミングはいつがよいか
帝王切開の術後感染症予防としての抗菌薬投与のタイミングは、新生児への抗菌薬暴露の懸念から臍帯クランプ後が推奨(1)されてきた。というのも、新生児の抗菌薬への暴露による常在細菌叢の破壊や耐性菌の誘導が問題視されてきたからである。しかし、2010年米国産科婦人科学会(ACOG)による勧告(2)が出され、手術前の投与が推奨されることとなった。帝王切開前に抗菌薬を投与することの有用性について考察する。
Costantin(3)らは、帝王切開に対する予防的抗菌薬投与を術前と臍帯クランプ後で比較した3つのランダム化比較試験(4)(5)(6)のメタ解析を行った。3つのランダム化比較試験では抗菌薬としてすべてセファゾリンが用いられ、377人が術前に、372人が臍帯クランプ後に投与された(表1)。その結果、子宮内膜炎を起こしたのは15人(4%)、33人(8.9%)で、相対危険度は0.47であった(95% CI, 0.26-0.85; P= 0.012)。創部感染を起こしたのは12人(3.2%)、20人(5.4%)で、相対危険度は0.60であった(95% CI, 0.30-1.21; P= 0.15)。これらを含むすべての感染を起こしたのは27人(7.2%)、54人(14.5%)で、相対危険度は0.50であった(95% CI, 0.33-0.78; P= 0.002)。術前の抗菌薬投与は子宮内膜炎、すべての感染の発生リスクを有意に下げた。創部感染の発生リスクに有意差はなかった。一方で、新生児敗血症(RR, 0.93; 95% CI, 0.45-1.96; P= 0.86)、敗血症疑いで検索を必要とした例(RR, 1; 95% CI, 0.70-1.42; P= 0.99)、NICUへの搬送(RR, 1.07; 95% CI, 0.51-2.24; P= 0.86)の発生リスクに有意差はなかった。
表1
以上より、帝王切開前の抗菌薬投与は臍帯クランプ後の投与と比べて、母体の術後感染症のリスクを低下させることがわかった。新生児の合併症に影響を与えることはなかった。術前に抗菌薬を投与することは術後感染症予防の観点から有用であると考える。
<参考文献>
1) Smaill F1, Hofmeyr GJ. Antibiotic prophylaxis for cesarean section. Cochrane Database Syst Rev. 2002;(3):CD000933.
2) ACOG TODAY SEPT / OCT 2010 p.10
3) Costantine MM, Rahman M, Ghulmiyah L, et al. Timing of perioperative antibiotics for cesarean delivery: a metaanalysis. Am J Obstet Gynecol 2008;199:301.e1-301.e6.
4) Sullivan SA, Smith T, Chang E, Hulsey T, Vandorsten JP, Soper D. Administration of cefazolin prior to skin incision is superior to cefazolin at cord clamping in preventing postcesarean infectious morbidity: a randomized, controlled trial. Am J Obstet Gynecol 2007; 196:455.e1-5.
5) Wax JR1, Hersey K, Philput C, et al. Single dose cefazolin prophylaxis for postcesarean infections: before vs. after cord clamping. J Matern Fetal Med. 1997 Jan-Feb;6(1):61-5.
6) Thigpen BD, Hood WA, Chauhan S, et al. Timing of prophylactic antibiotic administration in the uninfected laboring gravida: a randomized clinical trial. Am J Obstet Gynecol 2005;192:1864-71.
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