注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員が吟味し、医学生レベルで合格の域に達した段階 で、本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。内容の妥当性については教員が責任を有していますが、学生の私見やロジックについてはできるだ け寛容でありたいとの思いから、(我々には若干異論があったとしても)あえて彼らの見解を尊重した部分もあります。あくまでもレポートという目的のために 作ったものですから、臨床現場への「そのまま」の応用は厳に慎んでください。また、本ブログをお読みの方が患者・患者関係者の場合は、本内容の利用の際に は必ず主治医に相談してください。ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
AmpC β-lactamase-producing Enterobacter Spp.感染症の治療においてカルバペネム系抗菌薬とcefepimeはどちらが有効か
今回の実習にてAmpC β-lactamase-producing Enterobacter cloacaeによる菌血症,感染経路は尿路感染もしくは深部手術部位が疑われている症例を担当した。治療はエンピリックにカルバペネム系抗菌薬のmeropenemを投与しており,今後cefepimeの投与予定であった。カルバペネム系抗菌薬も第四世代セフェム系抗菌薬であるcefepimeも共にAmpC β-lactamase-producing Enterobacter Spp.感染症に有効な抗菌薬であるため,どちらがより有効なのか疑問に思い調べてみた。
Mark J. Siednerら(1) はボストンのBrigham and Women's Hospital と Massachusetts General Hospitalで2005年1月から2011年3月までの6年間でEnterobacter Spp菌血症の患者368人に対して,第3世代セフェム系抗菌薬,第4世代セフェム系抗菌薬(cefepime),カルバペネム系抗菌薬(meropenem or imipenem),キノロン系抗菌薬の治療効果を比較した。そのうちcefepimeを単剤投与された患者は36人,カルバペネム系抗菌薬を単剤投与された患者は16人であった。筆者らは,抗菌薬治療を開始してから1カ月以上続く菌血症をpersistent bacteremiaとし,cefepime単剤投与群はカルバペネム系抗菌薬単剤投与群よりも有意差を持ってpersistent bacteremiaをきたしにくいことを報告している。さらにEnterobacter Spp.の排菌率は両抗菌薬の間に差はなく, Enterobacter Spp.がしばしばAmpC β-lactamaseを持つことを念頭においてもcefepimeはカルバペネム系抗菌薬と同等の有効性を示す,と結論付けている。
Pranita D. Tammaら(2)はThe Johns Hopkins Hospitalで2010年2月1日から2011年1月31日までの1年間で血液,気管支,腹水からAmpC β-lactamaseを持つ病原体(Enterobacter Spp, Serratia Spp, or Citrobacter Spp)が検出された399人の入院患者においてcefepimeとmeropenemでの治療の有効性の比較を行った。筆者らは,213人のAmpC β-lactamase-producingEnterobacter Spp 感染症において30日死亡率と感染後の入院期間は両者の間に差はないと報告している。
以上から, AmpC β-lactamase-producing Enterobacter Spp.感染症の治療においてカルバペネム系抗菌薬(meropenemまたはimipenemに限る)とcefepimeでは有効性に差はないようである。
≪参考文献≫
(1) Clin Infect Dis. 2014 Jun;58(11):1554-63. doi: 10.1093/cid/ciu182. Epub 2014 Mar 18. Cefepime vs other antibacterial agents for the treatment of Enterobacter species bacteremia.
(2)Clin Infect Dis. (2013) 57 (6): 781-788. The Use of Cefepime for Treating AmpC β-Lactamase–Producing Enterobacteriaceae
コメント
コメントフィードを購読すればディスカッションを追いかけることができます。