ジェネリックについて詳しくは「薬のデギュスタシオン」の金城紀与史先生の論説をご覧頂きたい。
結論からいうと、ぼくはジェネリック(後発医薬品)容認派である。「容認」というのは積極的にジェネリックだけを使う、という意味ではないが、かといってジェネリックはだめだ、と否定はしないという立場である。
ジェネリックは先発品(新薬)と同じ有効成分が同じ量入っている。生物学的同等性試験を行い、その血中濃度も同じであることが確認されねばならない。また、近年では先発品との前向き比較試験も多く、短期的には降圧薬、抗凝固薬や抗血小板薬などで短期的な臨床アウトカムには差がないことが分かっている。
ジェネリックは高額な臨床試験をヘッジしているので安価に供給できるのが最大のメリットだ。確かに日本の国民皆保険制度のおかげで患者負担は大きくないから、ジェネリックの旨味は他国よりも小さい。しかし、生物学的製剤や分子標的薬など近年の医薬品は高額化が目立ち、3割負担であっても患者の支払い能力を超える場合が多くなっている(まあ、生物学的製剤のジェネリックは作りにくいらしいので、ここでの議論からはずれるが)。
たとえ高額医療制度や難病支援で患者負担が小さくなっても、その費用を代替わりするのは医療保険であり、結局は我々のポケットから、となる。日本の医療費は年間40兆を超え、今後もますます高額化が進んでいくはずだ。昔のように「質の良い医療のためならお金はどんだけかけてもOK」という時代ではない。
仮に百歩譲ってジェネリックの効果が既存の薬に劣るとしよう。たとえば、70点と90点というスコアの差にしよう。しかし、一般にユーザーがものを買うときは効果とコストのバランスを取って考える。コストはいくらかかってもよいから効果の高いものを、というユーザーもいるにはいるが、みんながそうではない。「安くて70点」を「高くて90点」より好む患者だって(本当は)多いはずだ。それを全否定するのは医者の悪しきパターナリズムである。なぜならば、「安くて70点」と「高くて90点」のどちらがベターかという問題は価値観の問題であり、純粋医学の命題ではないからだ。
有効成分や血中濃度が予測できるのなら、短期的な感染症治療薬(=抗菌薬)の効果はほぼ期待できる。というか、そもそもバイオアベイラビリティーに劣り、有効な血中濃度を獲得できないフロモックスやメイアクトのようなセフェム、オラペネムなどを使用しているのにジェネリックは使えない、というのはダブルスタンダードだ。
添加物によりアレルギー反応が起きたことがあるので、使いたくないというドクターもいた。しかし、アレルギー反応は新薬でも起きるのであり、ジェネリックだから使えないというのはこれもまたダブルスタンダードだ。こういう観点からはポリファーマシーを避けて「不要な薬、優先度の低い薬はなるたけ使わない」のが正しい戦略だ。しかし、日本のドクターは概ねポリファーマシーにも無頓着だ。複数の薬剤の相互作用も安全性や有効性に大きく影響する。ジェネリックの安全性、有効性を心配するなら、そちらも等しく心配すべきなのだが、なぜかポリファーマシーは看過される。
短期的な有効性はあっても、長期的なアウトカムや安全性は確約されていない、という意見もある。それはそのとおりである。しかし、であるならなぜ発売されたばかりの新薬にはなんのためらいもなく飛びつくのだろうか。糖尿病、高血圧、うつ病など、発売されたばかりの新薬が日本では1番よく売れる。長期的な安全性や有効性、というジェネリックを非難する論点はどこにいったのだろう。
血圧などは、ジェネリックを使ってみて、それでだめなら新薬に切り替えるというステップアップなやり方も可能である。この戦略なら、患者の負担や医療費を圧迫せずに有効な医療を提供することができる。ぼくがエイズ治療で行なっているのがこれで、有効性が分かっているけど副作用が懸念される既存薬(安価)を使ってみて、大丈夫なら継続、だめなら高額な薬に切り替えている。ジェネリックでも同じ戦略はとれるはずだ。
ジェネリックを懸念しているドクターの多くは患者に対する医療のアウトカムを真摯に心配している。もちろん、それは正しい。なのでポリファーマシーや新薬の問題も等しく真摯に心配すべきだ。あと、ごく少数ながら、製薬メーカー(新薬を出す大メーカー)の利益相反からジェネリックを否定する医者もいないではない。こちらは、もちろん正しくない。見るべきは企業の利益(とその先にある自分の利益)ではなく、患者と日本の医療の持続的な質の維持にあるべきだ。
あと、ジェネリックを作ってる企業が信用出来ないという声も聞く。しかし、ブランド品を作る大企業が信用に値するとは限らないのはすでに常識の部類に属する。フォルクスワーゲン、旭化成グループ、東芝、そしてノヴァルティス。これもジェネリックを否定する根拠としては弱い。
「薬のデギュスタシオン」到着したら、いずれ投稿させて頂きます(まだ、手に入りません)。
投稿情報: 坂口 志朗 | 2015/11/17 22:54