注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員が吟味し、医学生レベルで合格の域に達した段階 で、本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。内容の妥当性については教員が責任を有していますが、学生の私見やロジックについてはできるだ け寛容でありたいとの思いから、(我々には若干異論があったとしても)あえて彼らの見解を尊重した部分もあります。あくまでもレポートという目的のために 作ったものですから、臨床現場への「そのまま」の応用は厳に慎んでください。また、本ブログをお読みの方が患者・患者関係者の場合は、本内容の利用の際に は必ず主治医に相談してください。ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
糖尿病性足病変における感染の起因菌の診断では創表面のスワブからの培養は有用か?
実習で糖尿病足感染症の患者を担当した。担当症例では、創部浸出液をスワブで擦過して採取した培養でPseudomonas putidaが検出されていたが治療ではカバーしていなかった。スワブの培養が起因菌を診断する上で有用であるか疑問に思い、調べることにした。
Infectious Disease Society of America(IDSA)によるガイドライン(2012)には、スワブでの検体採取は避け、洗浄しデブリードマンされた創部から生検もしくは搔爬により採取した深部組織を検体とするよう書かれていた。その理由として、スワブでは表層の細菌を擦過し培養するため、皮膚の細菌叢や定着菌により汚染され偽陽性になりやすく、また深部組織に存在する病原微生物は検出されず、嫌気性菌は発育しないために偽陰性となることが挙げられていた1)。
Chakrabortiらによる下肢の創傷における創表面の擦過検体(半数は糖尿病患者のもの)を深部組織の培養結果と比較したシステマティックレビューでは、創表面のスワブ検体の起因菌検出における感度は42%、特異度は62%、陽性尤度比1.1、陰性尤度比0.67であった2)。つまり、スワブは起因菌の検出において感度特異度共に不十分であり、有用な検査ではないと考えた。
また、Demetriouらは、臨床的に感染を伴う50人の糖尿病性足潰瘍の患者を対象とし、神経障害性(グループA、22人)と神経虚血性(グループB、22人)の二群に分け、デブリードマン後に潰瘍底のスワブと組織パンチ生検の両方を取得し、培養結果を比較した。組織生検で検出された菌を真の起因菌とした時のスワブの検出の感度はA群で100%, B群で100%、特異度はA群14.3%, B群18.2%、陽性的中率はA群 53.8%, B群55.0%、陰性的中率A群100%, B群100%であった3)。この結果から、両群において、スワブは特異度が低く、真の病原微生物の推定には有用ではなかった。
さらに、Sennevillらは、糖尿病性足病変に合併する骨髄炎で、骨生検を行い培養陽性であった76人(81サンプル)について、骨髄炎の起因菌の診断におけるスワブの有用性を後ろ向きに検討した。骨生検(ゴールドスタンダードとされている)とスワブの培養結果で一致が見られたのは22.5%のみであった4)。
以上より、スワブは非侵襲的かつ簡便ではあるが、真の起因菌の検出が困難であることから、起因菌の診断には用いるべきではないと考える。
【参考文献】
1) Lipsky BA et al. 2012 Infectious Diseases Society of America clinical practice guideline for the diagnosis and treatment of diabetic foot infections.
2) Chakraborti C, Le C, Yanofsky A. Sensitivity of superficial cultures in lower extremity wounds. J Hosp Med. 2010 Sep;5(7):415-20.
3) Demetriou M et al. Tissue and swab culture in diabetic foot infections: neuropathic versus neuroischemic ulcers. Int J Low Extrem Wounds. 2013 Jun;12(2):87-93.
4) Senneville E et al. Culture of percutaneous bone biopsy specimens for diagnosis of diabetic foot osteomyelitis: concordance with ulcer swab cultures. Clin Infect Dis. 2006 Jan 1;42(1):57-62
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