注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員が吟味し、医学生レベルで合格の域に達した段階 で、本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。内容の妥当性については教員が責任を有していますが、学生の私見やロジックについてはできるだ け寛容でありたいとの思いから、(我々には若干異論があったとしても)あえて彼らの見解を尊重した部分もあります。あくまでもレポートという目的のために 作ったものですから、臨床現場への「そのまま」の応用は厳に慎んでください。また、本ブログをお読みの方が患者・患者関係者の場合は、本内容の利用の際に は必ず主治医に相談してください。ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
初発および初回再発Clostridium difficile 感染症の治療におけるvancomycinの有効性
Clostridium difficile感染症(CDI)は、入院患者に最も多く見られる下痢症の原因である。下痢以外にもイレウスや偽膜性腸炎、敗血症など時に致死的な症状を引き起こすだけでなく、施設内伝播による集団感染を生じさせるため、迅速な診断と適切な治療が必要となる(1)。
IDSAのガイドラインでは、初発のCDIに対する治療として、出来る限り使用中の抗菌薬を中止した上で、1)軽症〜中等症の場合はmetronidazole(MNZ)経口投与(500mg×3回/日、10〜14日間)し、2)重症の場合はvancomycin(VCM)経口投与(125mg×4回/日、10〜14日間)する、という重症度によって2つの異なるレジメンを推奨している(2)。実際は、Fred A. Zar等によると、軽症〜中等症においてはVCMとMNZの治療効果に有意差は認められない(3)。また、Leong C等は、初発治療後の再発率においても、VCMとMNZでそれぞれ18.4%と20.2%と差がなかったとしている(4)。しかし、MNZはVCMに比べて遥かに安価であり、Vancomycin-resistant Enterococcus(VRE)出現の心配が少ないことなどから、初発で軽症〜中等症の場合の治療にはMNZの使用が推奨されている(2)。
一方で、前述の様に、初発の重症例〔白血球>15,000/μl or 血清Cre値>通常の1.5倍〕に対しては、MNZよりもVCMの投与が効果的である。実際に、Fred A. Zar等は、初発重症CDI患者に対して、VCMを使用した群31人中30人(97%)が治療に成功したが、MNZを使用した群では38人中29人(76%)と成功率が低かったという結果が得られたとしている(p=0.02)(3)。また、American College of Gastroenterologyのガイドラインでは、治療開始後であっても、MNZによる治療で5〜7日以内に効果が見られない時、あるいは重症化の徴候や症状が見られた時には、VCMへの変更が推奨されている(5)。
初回再発CDIに対しては、IDSAのガイドラインでは、初発時の治療と同じレジメンが推奨されている(2)。しかし、同じレジメンを繰り返す有効性を裏付ける大規模な研究は調べた範囲で見つけることができなかった。一方、Leong C等は、初発時と初回再発時でレジメンの変更も検討されうるとしている(4)。
以上より、同等の治療効果、あるいは費用や耐性菌の出現リスクの違いなどの点から、CDIの初発や初回再発例ではMNZの投与および、再使用がそれぞれ第一選択とされているが、初回再発時に重症化した場合、躊躇すること無くMNZからVCM への変更を考慮するべきである。
参考文献
(1)ハリソン内科学第4版 メディカル•サイエンス•インターナショナル
(2) Cohen SH,et al. Clinical practice guidelines for Clostridium difficile infection in adults: 2010 update by the Society for Healthcare Epidemiology of America (SHEA) and the Infectious Diseases Society of America (IDSA). Infect Control Hosp Epidemiol. 2010 May;31(5):431-55
(3)Fred A. Zar, et al. A comparison of vancomycin and metronidazole for the treatment of Clostridium difficile-associated diarrhea, stratified by disease severity: Clin Infect Dis. 2007 Aug 1;45(3): 302-7
(4)Leong C,et al. Treatment Strategies for Recurrent Clostridium difficile Infection. Can J Hosp Pharm. 2013 Nov;66(6):361-8
(5)Surawicz CM, et al. Guidelines for diagnosis, treatment, and prevention of Clostridium difficile infections: Am J Gastroenterol. 2013 Apr; 108(4): 478-98
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