注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員が吟味し、医学生レベルで合格の域に達した段階 で、本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。内容の妥当性については教員が責任を有していますが、学生の私見やロジックについてはできるだ け寛容でありたいとの思いから、(我々には若干異論があったとしても)あえて彼らの見解を尊重した部分もあります。あくまでもレポートという目的のために 作ったものですから、臨床現場への「そのまま」の応用は厳に慎んでください。また、本ブログをお読みの方が患者・患者関係者の場合は、本内容の利用の際に は必ず主治医に相談してください。ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
腸球菌に対するペニシリン系抗菌薬とゲンタマイシンのシナジー効果について
シナジー効果とは2つ以上の要因が同時に働いて、個々の要因がもたらす以上の結果を生じることである。薬剤についても、併用によりシナジー効果が発揮されることがある。具体例として、β-ラクタムにより細胞壁透過性が生じ、細菌のアミノグリコシドの取り込みが促進され、微生物に対する薬剤の効果が増強される(1)。腸球菌による感染性心内膜炎では、シナジー効果を狙って、アンピシリンあるいはペニシリンGにゲンタマイシンを加える(2)。今回はペニシリン系抗菌薬とゲンタマイシンの腸球菌に対するシナジー効果がどのようなものなのか調べた。
Moelleringらは、ゲンタマイシンのMICが2000μg/ml以下の腸球菌株30株を1×107個培地に撒き、ペニシリン(10units/ml)-ゲンタマイシン(5〜30μg/ml:MIC以下の濃度)併用剤とペニシリン単剤を入れ、24時間後に細菌減少量を比較した(3)。結果、ペニシリン単剤を用いたものに比べて、併用剤を用いた方が、全株において100倍以上菌量が減少した。以上より、in vitroにおいて、ゲンタマイシンのMICが2000μg/ml以下の腸球菌株に対して、ペニシリン-ゲンタマイシンの併用を行うと、ペニシリン単剤を用いた時以上の効果が発揮されると考える。
Dresselらは、アンピシリンのMICが1~2μg/mlであるE.faecalisを、ゲンタマイシンのMIC ≤500 μg/mLの 群、500μg/mL ≤MIC ≤2000 μg/mLの群、2000μg/mL <MICの群 の3群に分け、各10株の合計30株を準備した(4)。この株を1×107個培地に撒き、各群に対して、アンピシリン(1/2MICの濃度)-ゲンタマイシン(2μg/mL)併用剤とアンピシリン(1/2MICの濃度)単剤を入れ、比較した。24時間後に菌量を測定すると、MIC ≤500 μg/mLの 群では、併用剤を用いた10株の内7株で、単剤を用いた方と比較して、100倍以上菌量が減少した。500 ≤MIC ≤2000 μg/mL群、2000μg/mL <MIC群 では、併用剤を用いても、単剤を用いた場合と菌量に違いはなかった。以上より、in vitroにおいて、ゲンタマイシンのMIC が500 μg/mL以下のE.faecalis株に、アンピシリン-ゲンタマイシンの併用を行うと、アンピシリン単剤を用いた時以上の効果が発揮され、かつMIC500μg/mL以上の株ではシナジー効果がみられなかったと考える。
以上より、in vitroにおいて、腸球菌に対するペニシリン-ゲンタマイシンの併用は、ペニシリン単剤を用いた時以上の結果を発揮しうると考えられる。また、ゲンタマイシンのMICに応じて、シナジー効果を示す時と示さない時があると考えられる。
(1) 青木眞 レジデントのための感染症診療マニュアル 第3版 医学書院
(2) Habib G et al. Guidelines on the prevention, diagnosis, and treatment of infective endocarditis (new version 2009). Eur Heart J. 2009 Oct;30(19):2369-413.
(3) Moellering RC Jr et al. Synergy of penicillin and gentamicin against Enterococci.
J Infect Dis. 1971 Dec;124 Suppl:S207-9.
(4) Dressel DC et al. Synergistic Effect of Gentamicin Plus Ampicillin on Enterococci with Differing Sensitivity to Gentamicin: A Phenotypic Assessment of NCCLS Guidelines.
Diagn Microbiol Infect Dis. 1999 Nov;35(3):219-25.
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