注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員が吟味し、医学生レベルで合格の域に達した段階 で、本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。内容の妥当性については教員が責任を有していますが、学生の私見やロジックについてはできるだ け寛容でありたいとの思いから、(我々には若干異論があったとしても)あえて彼らの見解を尊重した部分もあります。あくまでもレポートという目的のために 作ったものですから、臨床現場への「そのまま」の応用は厳に慎んでください。また、本ブログをお読みの方が患者・患者関係者の場合は、本内容の利用の際に は必ず主治医に相談してください。ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
HTLV-1感染レシピエントにおける腎移植後のHAM発症リスク
Human T lymphotropic virus type 1 (HTLV-1)はCD4陽性Tリンパ球に感染するレトロウイルスであり、キャリアの一部はATL(成人T細胞白血病)やHAM (HTLV-1 関連脊髄症)を発症する1)。
腎移植前にHTLV-1未感染であったレシピエントが移植後に新規に感染し、腎移植後数年以内にHAMを通常の発症率に比べ高い割合で発症し、急速に重篤化した症例が報告されている。腎移植に伴う免疫抑制が、移植によるHTLV-1感染およびHAM発症のリスクに関与している可能性が考えられる。そこで、すでにHTLV-1に感染しているレシピエントにおいても、腎移植がHAM発症のリスクに関与する可能性があるのかどうかを調べた。
腎移植後にHAMを発症したという症例報告2)~7)8例について下表にまとめた。移植前のHTLV-1感染が (D+R−)の腎移植において、HAM発症が少なくとも3例確認されている。
〈腎移植後にHAMを発症したレシピエント〉
Year of report |
Country |
Age/sex |
Type of transplantation |
Donor HTLV status |
Recipient HTLV status pre-transplant |
Recipient HTLV status post-transplant |
2000 3) |
Japan |
50/M |
DD |
- |
Negative |
Positive |
2001 4) |
Japan |
56/M |
DD |
- |
- |
Positive |
2001 5) |
Japan |
48/M |
DD |
- |
- |
Positive |
2003 6) |
Spain |
54/F |
DD |
Positive |
Negative |
Positive |
2003 6) |
Spain |
57/M |
DD |
Positive |
Negative |
Positive |
2007 7) |
Japan |
40/M |
DD |
- |
- |
- |
2010 7) |
Japan |
54/M |
LR (sister) |
- |
Negative |
Positive |
2013 2) |
U.S |
56/M |
LUR (wife) |
Positive |
Negative |
Positive |
(DD; deceased donor, LR; living related donor, LUR; living unrelated donor)
ではHTLV-1 (D+R+)や(D−R+)における腎移植後のHTLV-1関連疾患発症についてはどうだろうか。
HTLV-1感染レシピエントにおける腎移植後のATL、HAM発症リスクの推定および移植に伴う免疫抑制のHTLV-1に対する影響の推定を目的に、Nakamura8)ら、Tanabeら9)、Shiraiら10)によってそれぞれ6例(平均追跡期間13年)、16例(平均追跡期間8年)、9例(平均追跡期間4年)のHTLV-1感染レシピエントを対象とした後ろ向きコホート研究がなされた。ドナー及びレシピエントのHTLV-1感染状況は(D+R+)7例、(D−R+)7例、(D不明R+)17例であったが、そのいずれにおいてもHAMを発症した発症は確認されなかったため、これらの研究結果からは腎移植とそれに伴う免疫抑制がHTLV-1感染レシピエントにおけるHAM発症のリスクに影響を与えるかどうかは確認できなかった。
現時点では、高いエビデンスが得られるような大規模臨床研究が行われていないため、HTLV-1感染レシピエントにおける腎移植後のHAM発症リスクについて正確に評価することは難しいという結論に至った。しかしドナーまたはレシピエントがHTLV-1に感染している場合の腎移植を受ける患者に対しては、HTLV-1感染レシピエントの移植後のHTLV-1関連疾患発症リスクについては確認されていないが、(D+R−)における移植後HAM発症は報告されている、という説明と同意が必要だと考えた。また、移植後のレシピエントに対する厳重な経過観察が行われるべきである。
(参考文献)
1) ハリソン内科学第4版
2) P Ramaman et al. Donor-transmitted HTLV-1-associated myelopathy in a kidney transplant recipient_ case report and literature review. American Journal of Transplantation 2014; 14: 2417-2421
3) Nakatsuji Y et al. HTLV-1-associated myelopathy manifested after renal transplantation. J Neurol Sci 2000; 177: 154-156
4) Shintani Y et al. One case of HAM after cadavaric renal transplantation. Ishoku 2001; 36: 286
5) Narukawa N et al. Plasma exchange for the treatment of human T-cell lymphotoropic virus type 1 associated myelopathy. Ther Apher 2001; 5: 491-493
6) Toro C et al. Rapid development ofsubacute myelopathy in three organ transplant recipient after transmission of human T-cell lymphotoropic virus type 1 from a single donor. Transplantation 2003; 75: 102-104
7) Inose Y et al. Case report of HTLV-1 associated myelopathy (HAM) manifested after renal transplantation. Rinsho Shinkeigaku 2010; 50: 241-245
8) Nakamura N et al. Prognosis of HTLV-I-Positive Renal Transplant Recipients. Transplant Proc 2005;37:1779-1782
9) Tanabe K et al. Long-term results in human T-cell leukemia virus type 1–positive renal transplant recipients. Transplant Proc 1998;30:3168-3170
10)Shirai H et al. Renal Transplantation in Patients With Human T-Cell Lymphotropic Virus Type 1. Transplant Proc 2012;44; 83-86
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