最近役職も増えまくり、論文もいろいろ書いていて、なかなか出せなかった新刊です。あとがき転載します。よかったら読んでやってください。
あとがき
本書を最後までお読みいただいた皆さん、どうもありがとうございました。とりあえず、あとがきから読むあなた、こんにちは。
TBLのライブ講義は、早稲田大学の西條剛央さんの質的研究の教科書を読んだ時から「いつかは作ってみたい」と思っていました(「ライブ講義・質的研究とは何か(SCQRMベーシック編、アドバンス編)」、新曜社)。西條さんとはその後、彼の哲学理論である「構造構成主義」に関連したいろいろなお仕事でご一緒させていただきました。今回の企画も彼なしでは達成できなかったものなので、この場をお借りして深くお礼申し上げます。
こうやってゲラを読みなおしてみると、学生たちの息づかいと言うか、空気の高まりがよみがえってきます。TBLは2年目でしたが、本当にやってよかったと思います。これは本当に一種の「ライブ」でして、ぼくと学生が一緒に構築してきたプロダクトです。そして、このプロダクトを書籍化できたことにも感謝しています。
臨床医学の世界に置いても「ともに構築するco-constructed」な概念があります。それはナラティブ・メディシンです。ナラティブでは、患者と医者が一緒になってともに医療の方向を「構築」していきます。医者が勝手に診療方針を押し付けるのではなく、「患者中心の医療」なんて美辞麗句でごまかして丸投げするのでもなく。本書をお読みいただいた方はご理解いただけると思いますが、ここで学習された内容はどう逆立ちしても学生が自学自習でやったのでは到達不可能(でないとすれば、極めて困難)だったと思います。「学習者中心の学習」も一種の美辞麗句なのではないでしょうか。
もちろん、教育に完成型はないので、今後もこのTBLについてはさらに改良を重ねていく必要があります。でも、だいたい「射程」は見えたと思います。ぼくは神戸大学感染症内科版のTBLはアメリカのオリジナルなものよりもずっとよくできたと、わりと自画自賛しています(こんなこと書くと反感買うでしょうが、本当にそう実感されたのです。場の感じって重要だと思うんです)。読者の皆さんのご意見、ご感想をお待ちしたいと思います。
医学教育の世界では国際化の流れが激しく、いわゆる「2023年問題」というものも出ています。アメリカの基準に準じた医学部卒業生でないとアメリカの卒後研修を受けることができなくなる(かもしれない)という問題です。日本の医学教育界も国際化に向けて「待ったなし」なのですが、国際化とは「アメリカの真似をする」ことではありません。真の国際化、真のグローバリズムは「他の国にも真似してもらえるような」コンセプトを発信することだと思っています。そこを見据えて、今後ももっともっと大事なコンセプトを発信したいのです。
2013年 岩田健太郎@ハワイでのPBLワークショップ
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