本号偉元先生編集のStep Up式感染症診療のコツが出た。
感染症関係の和書は多い。試しにamazonで「感染症診療のコツ」と入力したら、似たようなタイトルの本がズラリと出て、本書は10番目に来た次第。雑誌の感染症特集も相変わらず多いが、どれも似たり寄ったりの企画で、繰り返す意味をあまり感じない(ので、最近はこういう月刊誌の原稿はお断りすることが多い)。
本書も、一見するとそれらの「me too」な感染症本かな、と思えてしまう。ところがどっこい、本書を開くととんでもないバケモノである。
いきなり最初から喜舎場御大の情熱あふれるエッセイだ。これだけで既存のテキストとはひと味ちがうことが明らかだ。「かつて臨床は長い歴史の間「悲惨」であった」「悲惨そのものはまだわれわれとともにいる」という言葉がほとばしる。研修医は姿勢を正して本稿を読むべし、である。
次いで、森澤雄司先生の感染管理のトピックに移るところが本書の憎いところである。日本は、よくも悪くも感染管理から感染症アプローチが行われてきた。その分、「感染症診療」はおざなり、の施設が多い。彼我の差もここに現れるわけで、いきおい「感染管理ばかり病院に要求されてつまらない」とネガティブな感情を持つ感染症屋もいないわけではない。
が、実際には感染管理(感染防止対策)は非常に面白い領域である。なので、ぼくも内科研修医の時から感染管理委員になって、その後も感染管理室に机を借りてずっと勉強してきた(ぼくが感染管理にけっこうどっぷりだった事実は案外知られていないらしい)。攻撃と防御はたいていの領域で表裏一体であり、感染治療と防止も表裏一体。分断されているわけではない。初期研修医の頃から、こういう視点を持っていることは極めて重要である。
その後も、我々の大先輩である青木眞先生、古川恵一先生、藤本卓司先生といった「臨床感染症夜明け前」の時代を支えてきた方々の文章が続く(まだ夜明け前だという話もあるが)。あのjoltの内原先生の文章まで入っている。大曲貴夫先生の端正な抗菌薬適正使用の話がある。徳田安春先生のバイタルとフィジカルの話がある。谷口智宏先生のグラム染色の話がある。岡田正人先生たちの、感染症ミミックの膠原病の話すらある。もう本書がタダモノではないことが分かりましたね。
小児感染症に関する斎藤昭彦先生のコラムや、長年細菌検査結果の解釈を教えてこられた佐竹幸子先生の文章もあり、超ベテランから若手に至るまで、臨床医学にとりつかれた情熱あるコンテンツが満載である。全員は紹介できないが、全ての著者がよき臨床マインドを持ったクリニシャンであり、本郷先生の思いが伝わってくる。
診断までのプロセスも、抗菌薬の選択も非常にリーズナブルで、一見似たようだがやたらと新薬やカルバペネム使いまくりの類似本とは大違いです。
初期研修医も、感染症のProを目指す後期研修医も、本書を読んで魂を揺さぶられるとよい。揺さぶられないようなら、感染症診療にも、あるいは臨床そのものにもむいていないのではないか、とぼくは思う。
amazonに写真ないのは気の毒なので、文光堂さん、なんとかしてください。
コメント
コメントフィードを購読すればディスカッションを追いかけることができます。