街場のアメリカ論を読みました。
白状すると、さらっと読み流すための本で、それほど期待していたわけではありません。内田さんはそんなにアメリカは詳しくなかろうけど、彼の慧眼からアメリカはどう見えるか、問うてみたい、、、そんな気分でした。
なにしろ僕はアメリカに住んでいたこともありますし、アメリカについて(医療限定ですが)本まで書いています。「アメリカという国の本質」については、かなり掘り下げて考えて(いたつもりで)、それが故に「アメリカ万歳のグローバルスタンダードバカ」や「アメリカはだめ、日本が一番の引きこもり主義」のどちらにも冷笑的です。
いずれにしても、「僕の方が分かっている」と上から目線で、まるで編集者のように僕は本書を読み始め、、、
大反省です。僕はアメリカのことなんかこれっぽっちも分かっていませんでした。
アメリカ在住のジャーナリストや、「アメリカに詳しい」評論家、あるいは学者の本はそれなりに読みましたが、「そうか、これがアメリカか」とここまで得心がいったことはこれまで一度もありませんでした。引用していたトクヴィル、白川静、Taub,そしてSzaszの使われ方も抜群でした。なぜ、今のアメリカはこのようなアメリカなのか、ここまですっきりと分かったことはなかったのでした。田中宇氏のメールマガジンもアメリカの深層を理解するのにずいぶん有用ですが、この本ほど深くはない。大切なのは、表層的な情報量ではないのです。見た目優しい(易しい)本に見えますが、見た目の優しさにだまされてはいけません。本当に恐怖すべきは、いつも見た目優しい人なのですから。
引用したいフレーズは多々あれど、一個だけ。
ある出来事が起こる。そのあと別の出来事が起きる。それが原因と結果のように見えるとしたら、それはそのままでは原因と結果の関係で結ばれているようには見えないからです。 33ページ
アメリカは遠からず「没落」するでしょう。132ページ、と内田さんは書きます。なるほど、2009年の今であれば、納得です。しかし、本書が出た2005年にそれを「本気で」信じた人がどのくらいいたでしょうか。
内田さんは、時代が経過しても「腐らない」文章を希求しています。何年経って読み返しても、「なるほど」と思える本です。トクヴィルの言葉は100年以上経っても「腐らない」希有な文章です。そして、本書も。「今を(後追いで)説明する解説書」なんかより、こういう本を読むべきなのでしょう。
このまま「街場の中国論」に突入していきます。
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非常に評判の良かった前著の改訂版。研修医向けの総合的なマニュアルですが、章末のティアニー先生のおことばが個人的には大好きです。
Another important question: have you have pain like this in the past? More than one unnecessary operations have been performed for porphyria, adrenal insufficiency, and familial Mediterranean fever.
腹痛のセクションより、、、、
うちの研修医たちにもぜひ読んでもらいましょう、、、、
投稿情報: 12:47 カテゴリー: 本、映画、その他 | 個別ページ | コメント (0) | トラックバック (0)
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ずっとほったらかしていた「オランダモデル」を超速攻で読みました。
初期研修医の労働についていろいろ考えています。アメリカでもヨーロッパでも、「研修医って労働者、学生?」といった議論はしてきましたが、それは「難しい」という回答でした。日本だけが、難しさと直視・直面できないでいます。僕は、厚労省がちゃんとした指針やガイドラインを作っていないのがけしからん、といっているのではないのです。どうせ突貫工事だし、僕としてはあまり役所にあれしろ、これするなとは言われたくない。けれど、厚生省がやっていることを労働省が全く知らず、あれやこれやの制約をかけるのは勘弁して欲しいと思います。そりゃ、ないんじゃないの?と思います。やはり常に現実を直視して欲しい。
現実を直視させれば世界一な国家がオランダです。アメリカなんかは、理想主義/理念主義国家なので、「こうなっているはず」「こうあるべき」というヴィジョンは明確ですが、それから外れてしまうと知らん顔です。アメリカくらい理念と現実のギャップの激しい国はありません。アメリカという国は現実を直視できないし、自身を相対化も出来ない(他の国に関心がないから)。
さて、本書を読んでとくにぐぐっとひかれたところは、
・正規雇用者とパートタイマーの差をなくす(既得権の放棄)
・労使政が協力してコンセンサスをとる。対立構造ではなく、同じ方向を向いている。
・オランダでは日本人が日本人であることに寛容である。各文化が尊重される、柱状社会。アメリカでは、日本人は「アメリカ人のふり」をして生きていかねばならないか、そうしないと当の(アメリカにいる)日本人からバカにされたり非難される(たぶん、アメリカ人はどっちでも良いと思っていると思うけど)。
・オランダではマリファナは合法だが(その理由はここでは説明しない)が、販売するコーヒーショップの要件に
ハードドラッグは売らない
18歳以下に売らない
最大量は5g
アルコールと共に売らない
周囲に迷惑をかけない(!)
とある。
・学校でしっかり社会教育をし、「考えさせる」。日本では考える生徒は先生に嫌がられ、先生の言うとおり西、素直に覚えてくれる生徒が「よい生徒」になりやすい。授業参観を見ていてとてもそう思う。
安楽死、尊厳死については近著で書いているのでここでは割愛します。
なお、オランダは世界で一番高い評価を受けている医療を提供している国でもあります。日本も、「我が国はアメリカよりも良い医療を提供している」なんて志の低いことを言わないで、もっと目線を高くするのが良いと思います。
投稿情報: 10:58 カテゴリー: 本、映画、その他 | 個別ページ | コメント (0) | トラックバック (2)
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内田樹の昔の本で、ちょっと今よりも口調が強いです。だんだんまるくなってきたのでしょうか。基本的には、「決めつけるヒト、自分が正しいと断言する人にはご用心」ということでしょうか。「相手が勝ち誇ったときそいつはすでに敗北している」、という言い方もありますが。
大塚英志の本なんてもう10年ぶりくらい?まあ、構造を見たらにている、というのは分かりますが、似ていることだけでいうと何とでもこじつけられる、という気もするのが難点。直観的に言って村上春樹と宮崎駿は全然違うし、異なる作品を同じ構造にはめ込んでしまうのも(やってやれないことはないにしても)ちと強引かもしれません。ちなみに、ポニョは見ていません。
これはかなり面白く、夢中になって読みました。
80年代、90年代って僕にとっては空白で、日本の時事や、ましてや思想についてはまったく無関心でした。だから、今でも「文芸批評」「時事批評」を根底にする日本の思想の流れには正直ついて行けません。だから、この本でさらっと勉強できて楽しかったです。
ただ、個人的には(体験上)、「日本の問題」や「今の問題」を哲学的に考えるインセンティブがどこにあるのだろう?と思います。今を「説明」する哲学なんてジャーナリズムの延長線上にしかないのでは?「私の問題」、「明日の問題、あるいは明日の地平」こそが、考えるに値するのだと思います。
あと、この本を読んで、宮代真司や中沢新一はとても真面目な人(そして善良な人)なのだと感じました。よく考えれば当たり前かもしれませんが、人は見かけで判断してはいけないのでしょう、、、、
投稿情報: 21:39 カテゴリー: 本、映画、その他 | 個別ページ | コメント (0) | トラックバック (1)
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もやしもんの8巻をバスの中で読みました。以前はバスの中でものを読むと確実に気分不良に陥っていましたが、最近は肉体が強靱になったのか、びくともしなくなりました。単に感受性が鈍っているだけか、、、
とてもよい話でした。けっこういつも感動するのですが、、、もやしもんって根底にはヒューマニズムとセンチメンタリズムなんですよね。淡々としていてあまり分かりづらいですが。
さて、現在移動中。今日もお仕事。昨夜から「抗菌薬」のスライドを大幅バージョンアップです。東京駅のQB houseで10分1000円で髪を切り(暇がないんです、、、)、久しぶりに新書を大量に衝動買いして、次の移動地へ。「物語論で読む村上春樹と宮崎駿」(大塚英志、、、彼の本を読むのは実に久しぶり)、「私家版・ユダヤ文化論」(内田樹)、「女は何を欲望するか?」(同じ)、「はじめての言語ゲーム」(橋爪大三郎)、「ニッポンの思想」(佐々木敦)、「エビデンス主義」(和田秀樹)、、、、、どれも楽しみ。
ビジネス本、自己啓発本、心理学本、脳科学本、教育本は最近めっきり読まなくなりました。賞味期限が短すぎるから、、、、新聞の広告を読めばだいたい言いたいことは分かる。現在の流行があり、それを否定するアジテーション・モデルが提示される、、、この繰り返し。もう、モデルを追っかけるモデルそのものが通用しないのではないかと思います。「モデル」から離れて考える。脱モデル・モデル、、、、、なんのこっちゃ。まあ、あと、これらのモデルが目指すものが軽薄すぎると僕は思っています。そんなものを人生の成功とか目標とか呼んでいいの??と読後にむなしく思ってしまう、、、、たぶん、「人生の成功」なるものを目指したその瞬間、その人の人生のなかで、大切なものが欠け落ちてしまう、、、そんな感じでしょうか。
投稿情報: 14:47 カテゴリー: 本、映画、その他 | 個別ページ | コメント (0) | トラックバック (2)
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昔はよかった、今の若い奴らは、、、とはいつの時代にも言われる常套句で、このペースで言うと、1000年前はとてつもなく優秀な人類だったとしか考えられない。そんなこと、ないけど。
僕が医学生だった時を振り返ればすぐ分かりますが、
絶対に今の学生の方が優秀
と断言できます。そうでない、と言う人は、たぶん美しい記憶ばかりが残っているのです。
凶悪犯罪も、交通事故死亡者も減り続けており、決して昔がよかったわけではない。これはデータを見ればすぐ分かることです。
ときに、沖縄県について気になっていたことがあります。長寿ナンバーワンの座を「他県」に奪われ、その原因として、
「昔の沖縄人は健康な食品を食べていた。今の食生活はアメリカ化して不健康。運動不足もあって」
と、さも「昔の沖縄人の方が今の沖縄人よりも健康だった」と言わんばかりです。
本当かな、と調べてみると、
桑江ら 沖縄県における平均寿命,年齢調整死亡率,年齢階級別死亡率の推移
(1973-2002) 沖縄県衛生環境研究所報 第40号 (2006)
www.eikanken-okinawa.jp/syoho/shoho40/image/121-128.pdf
これをみると、大正時代の沖縄県の平均寿命はなんと男性45歳、女性50歳くらいですよ。昭和50年で男性72歳、女性78歳、昭和55年で74歳、女性81歳、平成12年で男性77歳、女性86歳です。要するに、平均寿命は伸び続けています。
我々はすぐに「順位」を気にします。PISAとか医師国家試験合格率とか。でも、絶対的にどうなっているかという時間的推移と他者との比較をごちゃごちゃにして議論してはいけないのですね。要は、沖縄の人も長生きになっている。昔よりも長生きだけど、他の県の人がそれを追い抜いちゃった、というだけの話なのです。
もちろん、現代の食生活や運動が沖縄の人に影を落としている可能性はありますが、少なくとも、「昔の沖縄人は今のそれより健康」というのは全く無根拠なステートメントです。年齢調整死亡率についてはもっとあからさまで、例えば昭和50年の沖縄男性では957だったのが、平成7年には632です。沖縄の人は「死ににくく」なっているのです。
さて、我々の生きる目的は、「他人より」長生きをすることでしょうか。人と比較することでしか自分を規定できない人生は、哀しいものです。こないだ問題にした「嫉妬心」の仲良しの友達でもあります、こういうメンタリティーは。
まあ、この先の話は簡単にはいかないので、このへんで。
投稿情報: 09:14 カテゴリー: 本、映画、その他 | 個別ページ | コメント (0) | トラックバック (1)
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移動時間などを利用して、買っていたけど読んでいなかった1Q84を読了。
とても完成度の高い小説だと思いました。けれど、「ノルウェイの森」にははるかに及ばないとも感じました。
「ノルウェイ」は今読み直すと文章が若いし、すこし気取っているし、妙にセンチメンタルです。文学の専門家なら、あまり高く評価しないかもしれません。韓流ドラマみたいなところもあるし(見てないので、あくまで印象ですが)。一方、1Q84はプロットは完璧だし、構成はしっかりしており、オウムなどの社会的事件を深く掘り下げ、人間のあり方を深く掘り下げ、世界のあり方を深く掘り下げ、文章も揺れがなくて、本当に純度の高い完成度の高いものだと思います。
でも、10年経っても忘れないのは、「ノルウェイの森」だと思う。ちょうど「カサブランカ」が突貫工事で作られた「B級映画」だったにもかかわらず、「A級」である国民的映画(例えば、グリフィスの「イントレランス」など)よりも長く愛され続け、記憶にとどまり続けたように。長くひたむきに待ち、耐える主人公の姿や周辺の人物の感傷的なエピソードに、センチメンタルなその文体に僕はとても心を揺り動かされるのでした。
1Q84もよかったけれど。
投稿情報: 07:58 カテゴリー: 本、映画、その他 | 個別ページ | コメント (0) | トラックバック (0)
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「寝ながら学べる構造主義」を読みました。一気に読みました。これは、とても読み甲斐のある本です。見かけの優しさに評価を落とされがちですが、そんなことは、ない。たぶん。
特に、エクリチュール、アンガージュマン、そしてフーコーの凶器の査定の部分は自分の悩み考えたところをあっさりとある回答を出してしまっていて、お口あんぐりでした。バルト、サルトル、フーコーの原著を読んでいても、こんなに「落ちる」ことはなかなかないようです(バルトの本は読んだことないですが)。
投稿情報: 13:17 カテゴリー: 本、映画、その他 | 個別ページ | コメント (0) | トラックバック (6)
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