まず、外科手術後何年も経過した後に黄色ブドウ球菌感染が起こる例があるのかという点をcase reportから調べました。
①腹部切開ヘルニア修復の10年後に開発された遅延メッシュ感染のメッシュ除去と後方コンポーネント分離技術による再建、②舟状骨の遅延性特発性ハードウェア関連骨髄炎(伸ばした手での転倒に起因する舟状骨骨折のネジ固定の20年後の感染)、
①はメチシリン感受性黄色ブドウ球菌による感染、②はメチシリン感受性黄色ブドウ球菌およびプロピオニバクテリウムアクネスによる感染でした。
①の論文では過去発生した3つの腹部切開ヘルニア再建後のメッシュ感染で晩期発症(論文では6か月以上としている)が報告されていた。その例から、遅延メッシュ感染の主な原因は、2つの事実により、細菌バイオフィルムを伴う長期の排水から生じる逆行性経皮感染のようだ。 1つは、以前の4つの手術すべてが清潔な状態、または少なくとも準清潔な状態で行われ、過去の病歴では敗血症事象は観察されなかったこと、もう1つは、培養バクテリアの種類(C. coli、P。aeruginosa、およびS. aureus)が豊富なバイオフィルムを生成し、二次的な感染を引き起こすことが知られていることです。そしてこのことから、洗浄や排水などの長期保存療法を避けることを推奨できます。さらに、感染した4つのメッシュすべてが除去されたため、バイオフィルムのデブリドマンの観点から遅延メッシュ感染を治療するには、メッシュの除去が不可欠と思われるとのことでした。長期にわたり排水を伴う保存療法をしていた点で本症例とは違いますが、参考になる症例でした。
②の論文でも、舟状骨ねじ固定後の431人の患者のうち5人だけが創傷および/またはハードウェア感染と感染自体が珍しく、20年という晩期感染も非常にまれでした。骨折後に残る外傷性の骨隔離は、障害のない無傷の皮質よりも感染しやすいことが知られていて、この場合も人工物留置とそれに伴うバイオフィルム形成がリスクファクターとなったようです。早期発見、積極的なデブリドマン、およびハードウェアの取り外しとそれに続く適切な抗生物質治療がこの論文では推奨されていました。
そして、最後にこのような何年にもわたる遷延性の感染は非常に珍しいのですが、あるのはあり、今回黄色ブドウ球菌が検出されたことからも、人工物留置とそれに伴うバイオフィルム形成がリスクファクターとなったようだと結論を出しました。
※参考文献
① Tamura, T., Ohata, Y. & Katsumoto, F. Mesh removal and reconstruction with posterior components separation technique for delayed mesh infection developed 10 years after abdominal incisional hernia repair: a rare case report. surg case rep 5, 140 (2019). https://doi.org/10.1186/s40792-019-0697-3
② Jack Burns, Evan Moore, Jacob Maus, Brian Rinker Delayed Idiopathic Hardware-Associated Osteomyelitis of the Scaphoid The Journal of Hand Surgery
Volume 44, Issue 2, February 2019, Pages 162.e1-162.e4
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