YSQ;肝臓にある腫瘤性病変に対してどのような疾患を考えるべきか
【序論】
今回担当させていただいた患者の肝臓にある腫瘤性病変に対して肝膿瘍と診断されていたが、それを否定する意見が多く出ていた。そのため、肝膿瘍以外に考えられる可能性として何があるかを疑問に思い調べた。
【本論】
肝臓にある腫瘤性病変に対して考えるべき主な疾患は、肝細胞癌・胆管細胞癌・腺癌・限局性結節性過形成・転移性腫瘍・膿瘍・嚢胞・血管腫などがある。[1]
一般的に考えられる良性の病変としては、肝血管腫・限局性結節性過形成・腺腫・特発性非肝硬変性門脈圧亢進症・再生結節等がある。炎症性偽腫瘍という稀な良性疾患もある。可能性の高い悪性疾患としては、肝細胞癌・胆管癌・転移性腫瘍等がある。また、軟部組織肉腫(類上皮血管内皮腫・血管由来の低悪性度新生物等)・繊維層板型の肝細胞癌・肝芽腫・非ホジキンリンパ腫も肝臓に腫瘤性病変を呈する。[2]
肝臓にある腫瘤性病変が嚢胞であった場合可能性が最も高いのは、単純性嚢胞・多発肝嚢胞である。それらの次に可能性が高いのは、エキノコックスのような寄生虫による包虫症・嚢胞腺腫・先天性多発肝内胆管拡張症・胆管重複等がある。他にも考えるべき疾患としては、腫瘍(原発性・二次性)・偽性嚢胞(外傷性肝内出血・肝内梗塞・肝内胆汁腫)・線毛性前腸性肝嚢胞がある。[3]
また、肝臓に膿瘍を形成している場合も考えられる。その場合最も考えなければならないのは赤痢アメーバによるものであり、他には結核・メリオイドーシス・エキノコックス・カンジダ属によるものなどがある。[4]
【結論】
肝臓にある腫瘤性病変に対しては様々な疾患が考えられ、頻度や緊急性などを考慮したうえで生命予後を大きく変える疾患を見逃さないことが必要である。まずは悪性疾患(肝細胞癌・胆管癌・転移性腫瘍等)を除外し、患者の基本情報・画像所見などを検討しながら頻度の高い疾患を考えていくべきである。今回の症例では元々肝臓の膿瘍と診断されていたところ現在は後腹膜の膿瘍または腫瘍が考えられており、肝臓の腫瘤が実は後腹膜の病変であるという可能性を示唆した文献は見つけることができなかったが、解剖学的位置関係も考えて臨機応変に仮説を立てるべきだと考えられる。
【参考文献】
- ハリソン内科学 第5版. p2042
- Jonathan M Schwartz, Jonathan B Kruskal et al. Solid liver lesions: Differential diagnosis and evaluation. Up To Date. 2018
- Arie Regrev, K Rajender Reddy et al. Diagnosis and management of cystic lesions of the liver. Up To Date. 2020
- Joshua Davis, Malcolm McDonald et al. Pyogenic liver abscess. Up To Date. 2018
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