日本にはすでにコロナウイルス感染が蔓延してしまっている。手遅れだ。そういう意見を耳にするようになった。専門家もそう主張している。が、それを確定するデータはない。
間接的なデータを主張するものもいる。
すでにチャーター便から帰国した3便で565人が帰国し、感染が判明したのが8名とされる(その後感染者が変化したが、計算が困難になるので仮にこのままで計算する)。感染率は1.4%である(https://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2020020401001482.html)。
さて、2019年12月30日から2020年1月22日までの武漢からの渡航客にこの1.4%をかけて、日本に入った感染者を推測したものもいる。
成田空港 9,080 x 1.4%=約127
関西空港 6,272 x 1.4%=約88
名古屋中部 2,656 x1.4%=約37
となり、数百人規模の感染者がすでに国内に入っているのではないか、というのだ。
https://www.businessinsider.jp/post-206403
しかし、チャーター便が飛んだのは流行がひどくなった1月下旬以降で、流行初期で感染者が少なかった状況は無視している。そのころ日本人がチャーター便で帰還していたらもっと感染率は低かったろう。
私が医事新報に寄稿した(「あらゆる可能性を「想定内に」」)のが1月17日。そのとき判明していた感染者はわずか41名だった。実際にはもっとたくさんいたであろうが、チャーター便第一便が日本についたのは1月29日。このときの中国内の感染者は5997名と報告されている(実際にはもっと多いだろうが)から、全然状況は異なる(https://www.who.int/docs/default-source/coronaviruse/situation-reports/20200129-sitrep-9-ncov-v2.pdf?sfvrsn=e2c8915_2)。
日本にコロナウイルス感染者がどのくらい入ってきているのかは分からない。しかし、その感染が放置されているのなら、なぜ「原因不明の肺炎続出」という形で我々の目に顕在化しないのだろうか。臨床現場がぼんやりしているからか。保健所がぼんやりしているからか。
もうひとつ。世界で30近くの国に輸出されているコロナウイルス感染だが、殆ど2次感染事例の報告がない。これも世界中がぼんやりしているからだろうか。
あるいは、ぼんやりしているのかもしれない。しかし、この仮説、、、世界にはコロナウイルスがもうかなり拡散しており、我々が全然それに気がついていない、、、という仮説は、我々が世界規模で数十カ国同時に相当ぼんやりしている、、、という仮説を受け入れなければならない。私はこの仮説を速やかに棄却することはしないが、かといって、これがもっとも可能性が高い仮説、、、というのも根拠が薄弱すぎるのではなかろうか。
第二の武漢を作らない。これが我々に課せられた大きなタスクだ。大量の軽症、無症状の患者がある地域で無制限に増えてしまえば、そこに必ず一定数の重症例、死亡例が加わることだろう。私が懸念しているのは武漢の感染の死亡「率」ではない。死亡率は分母の設定法でコロコロ変わる。15%程度にもなれば、1%程度にもなる。そういうものだ。
気にするべきは「死亡数」である。日々報告される武漢でのコロナウイルス感染死亡者数は2月13日時点で100人前後を推移している。累計死亡は1000人を突破した。1000万都市でこれほどの死者数を看過できるだろうか。私はできないと思う。
http://2019ncov.chinacdc.cn/2019-nCoV/
真実はどこにあるのかは未だに分からない。しかし、「もう日本にはコロナは蔓延してるよ」説がそれほど根拠の確かな仮説ではないことはすでに示したとおりだ。というか、それを支持する根拠はほとんど皆無なのが現状だ。ここでガードを下げてはいけないし、世界でガードを下げてしまった国はひとつもない。間違った諦観に陥るのはまだ早い。
コメント
コメントフィードを購読すればディスカッションを追いかけることができます。