「熱傷患者に対する抗菌薬の予防投与は有効か」
私の担当患者は、自宅火災によりBurn index:20の重症熱傷を負い救急搬送された患者で、初期対応としてスルバクタム/アンピシリンを投与されていた。熱傷患者において予防的に抗菌薬を投与することが感染予防に有効であるか疑問に思い、本テーマについて調べることにした。
熱傷は皮膚の保護バリア機能を損ない、全身性に免疫が抑制され、感染の素因となる。レンサ球菌とブドウ球菌が熱傷患者の感染の主な原因であり、緑膿菌の感染は熱傷患者の管理において問題となる。
熱傷患者の感染予防を目的とした抗菌薬投与の有効性と安全性の評価を目的としたメタ分析が2013年Balasja-Nava LAらによって行われている。この研究には36件のランダム化比較試験(対象者2117名)が選ばれており、内26件が局所投与、7件が全身投与(4件が周術期、3件入院中および標準的治療中の投与)、2件が難吸収性抗菌薬の投与、1件が気道を介した局所投与であった。
スルファジアジン銀の投与と被覆材の使用との比較(11件の試験、対象645名)では、スルファジアジン銀投与において熱傷創感染は有意に増加し(OR=1.87; 95%CI:1.09 to 3.19, =0%)入院期間が延長することと関連していた。外科的処置の行われない患者に対する抗菌薬の全身投与では(3件の試験、対象119名)熱傷創感染予防のエビデンスとなるデータは得られなかった。トリメトプリム/スルファメトキサゾールの全身投与で、肺炎発症率は減少する報告もあるが(1件の試験、対象40名、RR = 0.18; 95% CI: 0.05 to 0.72)、敗血症では有効とはいえなかった(2件の試験、対象59名、RR = 0.43; 95% CI: 0.12 to 1.61)。他に、難吸収性抗菌薬とセフォタキシムの併用によりMRSAの発生率が有意に増加したという報告がある(RR = 2.22; 95% CI: 1.21 to 4.07)。
この研究の結論は、各研究の規模が小さく研究のバイアスのリスクが高いまたは不明確であり、抗菌薬投与による熱創傷感染予防の効果は現在不明であるとしていた。
本レポートの結論として、大半の熱傷患者に対する抗菌薬予防投与の効果を示すエビデンスは見つかっておらず、MRSAの発生リスクが高まることを考慮すると予防投与は行わない方が良いと考える。
【参考文献】
・Barajas-Nava LA, et al.(2013)Antibiotic prophylaxis for preventing burn wound infection.
・Harrison’s principles of internal medicine 19th Edition (p.912)
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