感染症内科レポート
《テーマ》
誤嚥性肺炎に対する抗菌薬の投与期間について、ガイドラインでは1週間を推奨しているが、 延長した場合にどのようなメリット・デメリットがあるか。
〈序論〉
誤嚥性肺炎に対する抗菌薬の投与期間について、「米国感染症学会ガイドライン2016」では原因菌によらず7日間の治療を推奨しており、日本の「成人肺炎診療ガイドライン」でも1週間以内の治療を目安に、臨床状況や原因微生物などから判断することを推奨している。抗菌薬の投与期間を1週間以上に延長した場合に起こりうる事象について疑問に思ったため、調査を行なった。
〈本論〉
Jeanらの報告では、抗菌薬の投与期間をそれぞれ8日間と15日間に設定した患者群の間における際について言及されている。
研究手法はフランスの51のICU施設での前向きランダム二重盲検臨床試験である。1999年5月から2002年6月の間に気管支鏡検体の定量的培養結果により人工呼吸器関連肺炎(VAP)と診断され、適切な抗菌薬のエンピリック治療を実施された401人の患者を対象としている。これらの患者を8日間の治療を受ける197人(A群)と15日間の治療を受ける204人(B群)にランダムに分類し、最初の気管支鏡検査から28日間と60日目に記録を行なった。
結果として、2群間では死亡率1(18.8% vs 17.2%; 90%信頼区間 -3.7%, 6.9%)と再感染率(28.9% vs 26.0%; 90%信頼区間 -3.2%, 9.1%)では有意な差は認められなかった。その他にも、機械的換気のない日数、臓器不全のない日数、ICU滞在期間、60日目の死亡率に差異はなかった。一方で、緑膿菌を含むグラム陰性桿菌によってVAPを発症した患者では、A群はB群と比較してはい再感染率は高かった(40.6% vs 25.4%; 90%信頼区間 3.9%, 26.6%)。また、再発感染症を起こした患者のうち、B群よりもA群の方が多剤耐性菌の出現率が有意に低かった(42.1% vs 62.0%; P=0.4)。
〈結論〉
抗菌薬の投与を延長することにより再感染率を下げられる可能性はあるが、代償として多剤耐性菌の出現リスクが上がる。院内での多剤耐性菌の出現率を下げるためには使用する抗菌薬の種類や投与期間を減らす必要がある。今回参考にした論文では8日間の投与であったが、投与期間を短縮しても再感染率の上昇以外に有意な差は認められず、多剤耐性菌の出現リスクの観点からガイドラインの推奨は妥当であるといえる。ただ、抗菌薬の投与期間について明確に示した研究は少なく、臨床では経験的に治療の方針を決定しているのが現状である。
〈参考文献〉
米国感染症学会ガイドライン2016
日本呼吸器学会 成人肺炎診療ガイドライン2017
Comparison of 8 vs 15 Days of Antibiotic Therapy for Ventilator Associated Pneumonia in Adults; A Randomized Trial
Jean Chastre, MD ; Michel Wolff, MD ; Jean-Yves Fagon, MD ; et al
JAMA. 2003 Nov ; 290(19) : 2588-2598
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