Clinical Question
MRSAを起炎菌とする右心系の感染性心内膜炎(以下IE)の治療方法を静注薬から経口薬に変更することで、治療効果が劣ることなく患者を早期に退院させられるか否か.
Introduction
IEに対する治療法は抗菌薬による内科的治療と外科手術が主流である。MRSAのIEに対して積極的に用いられる抗菌薬はDaptomycin, Vancomycin, Gentamycinであるが、いずれも静注薬であり、TDMを要する上、投与期間は6 - 8週間である。これらの理由からIE患者は入院期間が長く、身体的、精神的負担となる。また病院経営の観点からも長期入院は好ましくない。静注から経口投与に移行することで、治療効果を維持したまま入院期間を短縮できないかを検討した。
Body
担当患者のPICOは次のようになる。MRSAによる右心系IE患者が、Vancomycin静注をLevofloxacinとRifampicinの併用内服療法に変更すると、Vancomycin静注を継続する場合と比べて、死亡率や再発の頻度が増加しないか否か。なお当該患者では左口角膿痂疹の膿検体を用いてLevofloxacinとRifampicinに感受性があることが分かっている。左心系IE患者に対しては2019年初頭にThe Partial Oral Treatment of Endocarditis (POET) trialの結果が報告された。本試験は多施設、ランダム化、非盲検化試験であり、論文のPICOは次のようになる。streptococcus, Enterococcus faecalis, Staphylococcus aureus, またはcoagulase-negative staphylococciを起炎菌とする左心系のIE患者が、 Dicloxacillin + Rifampicin、Amoxicillin + Rifampicinなどの併用内服療法に変更すると、静注薬を継続する場合と比べて、全死亡率や、緊急心臓手術・塞栓症・菌血症の再発のイベントリスクは増加しない。また入院期間は19日(IQR, 14 - 25日)から3日(IQR, 1 - 10日)に短縮される。ただし本試験には右心系のみのIE患者は含まれていない。またS. aureusが検出された患者は20%程度に過ぎず、特にMRSAは含まれていない。
Conclusion
右心系IE患者に対しても経口薬への移行が可能かどうかは分からなかった。右心系IEは全体の5 – 10%程度に過ぎないため、大規模臨床試験が困難であると考えられる。左心系IEと右心系IEを比較した症例報告などの文献調査と、無ければ臨床試験の実施が必要である。また内服薬をペニシリン系ではなくフルオロキノロン系を用いた場合にも同等のアウトカムが得られるかどうかを調べる必要がある。
References
- Kasper, Dennis L., et al. Harrison's Principles of Internal Medicine, Twentieth Edition.
- Iversen K1, et al. Partial Oral versus Intravenous Antibiotic Treatment of Endocarditis. N Engl J Med. 2019 Jan 31;380(5):415-424.
- Habib G, Lancellotti P, Antunes MJ, et al. 2015 ESC guidelines for the management of infective endocarditis: the Task Force for the Management of Infective Endocarditis of the European Society of Cardiology (ESC). Eur Heart J 2015; 36: 3075-128.
- Guidelines for Prevention and Treatment of Infective Endocarditis (JCS 2017)
- 日本化学療法学会,日本感染症学会 編集.MRSA 感染症の治療 ガイドライン改訂版 2017.日本化学療法学会 2017
- Chan P, Oqilby JD, Seqla B. Tricuspid valve endocarditis. AM Heart J 1989; 117: 1140-1146.
寸評 これも文献吟味そのものは妥当。が、右の話に、左の文献では噛み合いません。文献検索スキルはこれから上げてけばいいです。
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