子宮内感染後の妊孕率の変化はあるのか
今回私が担当した患者はXXXであった。XX子宮内感染と考え、このことが患者のこれからの妊孕率に影響を及ぼすのかを考察する。
Tao Xらは、2000年から2013年の間に不妊症と新たに診断された女性18276人とその対照群の女性73104人(平均年齢31±6.2歳)を、40歳以下とそれ以上の2群に分けて、不妊症に関連する危険因子を同定しようとした。その結果、40歳以下の女性においては、卵巣、卵管、骨盤細胞組織、腹膜(オッズ比(OR)= 4.823)、および子宮(OR = 3.050)の骨盤内炎症性疾患や子宮頸部、膣、外陰部の炎症(OR=7.788)が不妊症のリスク因子であった。40歳以上の女性においては、卵巣、卵管、骨盤細胞組織、および腹膜の骨盤内炎症性疾患(OR = 6.028)や子宮頸部、膣、外陰部の炎症(OR = 6.648)が不妊症のリスク因子であった。以上より急性の生殖器感染症は不妊症のリスク増加に関連していると言える。
また、Kotaro Kitayaらによる慢性子宮内膜炎(CE)に関するレビューによると、原因不明の不妊患者の28%、反復着床不全(RIF)患者の14%-41%、および不育症(RPL)患者の8%-28%でCEと診断されている。また、子宮内膜生検後の体外受精-胚移植(IVF-ET)において、RIFの既往があるCE患者は、CEの既往がないRIF患者よりも着床率が有意に低かった(15%vs46%)。同様に、RPLおよび未治療のCEの既往がある女性の、妊娠あたりの出生率は7%と非常に低かった。さらに、CEと診断された生殖年齢の女性は、そうではない女性と比べて将来の不妊のリスクが60%高かった。
以上より、子宮内膜炎の罹患している状態や慢性子宮内膜患者に関しては、不妊症に関するリスクはあると考える。また、炎症が進むと子宮筋層炎や子宮傍結合組織炎を起こす可能性もある。さらに子宮付属器や骨盤腹膜に波及すると全身状態の変化を伴うこともある。このように重症化または慢性化すると、敗血性ショックなど重篤な状態になったり、不妊症のリスクが増加したりするので、細菌学的検索を行うとともに、その結果を待たずに速やかに適切な抗菌薬の使用を開始することが望ましいと考える。このように適切に治療すれば、一般的に抗菌薬治療によく反応し予後は良好であるので、子宮内感染が治癒すればその後の妊孕率の変化はないと考える。
参考文献
Tao X,et al,” Relationships between female infertility and female genital infections and pelvic inflammatory disease: a population-based nested controlled study.”, Clinics (Sao Paulo)(2018) ; 73: e364 PMID: 30110069
KotaroKitaya,et al,” Endometritis: new time, new concepts”, Fertility and Sterility
Volume 110, Issue 3(2018) ,pp.344-350 PMID: 29960704
『産婦人科感染症マニュアル』(2018) 一般社団法人 日本産婦人科感染症学会 編
寸評 女性生殖器の解剖と感染リスク、妊娠リスクを復習できました。本論で論じないことは、結論で論じてはいけない、の原則も学びましたね。
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