追記 2019年4月22日
本件について兵庫県国保連合会と昨日会合が行われました。細かいところは割愛しますが、結論だけ申しますと、
「菌血症あるいは菌血症疑い」という病名で外来で血液培養2セットオーダーすることで、一律査定されることはない」
と、方針転換されるそうです。なお、1セットのみでは医学的にも不適切なことから原則査定されます。
兵庫県での対応が悪かったので、中央に手紙を書きました。ここに供覧します。
2019年2月14日
公益社団法人 国民健康保険中央会
会長 岡﨑 誠也殿
前略
我々は感染症を専門とする医師です。兵庫県国民健康保険団体連合会での医療保険適応審査に問題があるため、是正を要求すべく一筆したためました。
感染症の診断検査である血液培養は「菌血症」に保険適応があります。また、従来本検査は1回(1セット)のみが保険で認められていましたが、診断感度・特異度の点からは2セット以上のほうが適切であることが知られており、2014年(平成26年)より、2セットの血液培養(細菌培養同定検査)の算定が認められています。
ところが最近になって、兵庫県の複数の医療機関で外来診療での血液培養算定が認められない事例が相次いでいます。1セットのみ認められるケース、1セットでも認められないケースなど様々な問題が指摘されましたので、神戸大学医学部附属病院から問い合わせたところ、「外来診療で敗血症を診療するのは不適切なので算定しないが、「菌血症」という病名なら認める」との回答を得ました。
しかし、その後も複数の県内医療機関から「菌血症」の病名でも認められない事例が相次いでいます。そして、私共が入手した情報によると、連合会の委員たちが「菌血症は保険適応病名だが、これを認めると適当に病名をつけて外来で血液培養を行うからよくないため、これを全例認めない。再審査請求をすれば認める」という見解を会議で表明し、これを基本方針としているようです。
確かに、「敗血症」であれば入院を要する重篤な病態ですので外来でつける病名としては不適切かもしれません。しかし、感染性心内膜炎や腎盂腎炎などを原因とした「菌血症」を外来で診療することはそう珍しいことではありません。また、そのような患者に血液培養を施行することなく、漫然と経口抗菌薬を投与し、患者の病態が悪化するのみならず、確定診断も不可能になった残念なケースを我々専門家はしばしば経験しています。
不当な病名や不要な検査は審査の対象とすべきでしょうが、「菌血症」の病名で一律血液培養を算定しないということになると、上記のような患者の予後悪化につながりかねません。また、医学的に正しい診療を行う医師が、ただでさえ多忙な業務に重ねてさらに再審査請求を行わねばならないのも不合理です。医学的に正しくない、血液培養を行わずに抗菌薬をみだりに投与するけしからん医師の方が楽をできるわけで、誠に不公正なことであります。むしろ、過剰請求を罰するべきはいい加減な診断で抗菌薬をみだりに投与するこうした医師たちに対して行うべきではないでしょうか。
重ねて申しますが、「菌血症」疑いに対する2セットの血液培養検査は医学的に必要であり、保険診療上認められています。それを兵庫県だけのローカルルールで一律に算定しないのは医学的に間違っており、ルール上も不適切です。本件の是正を目指してなんどか兵庫国保連合会に問い合わせましたが、個別の事例に対して再審査請求せよ、と回答するのみでこの構造的な問題を根本から改善する意欲を持たないようです。また、兵庫県では社保も同じ根拠で同じ誤謬に陥っているという指摘もあります。この件については社会保険診療報酬支払基金兵庫支部に問い合わせましたが、事実関係を調査していただけるという回答を即日(本日)得ました。門前払いだった国保連合会とはずいぶん対応が違っていたこともここに申し添えます。
兵庫県を含め日本に住む患者の疾患が適切に診断され、適切に治療されるのは医療の根幹をなすものであり、我々医療者も貴会もこれを目標とすることに変わらないものだと私達は信じます。不当請求に対する正当な審査は是としますが、本件については妥当な対応ではありません。速やかなる対応と自体の改善をここに要求いたします。ご不明な点などございましたらお問い合わせください。
神戸大学大学院医学研究科感染治療学分野教授
神戸大学医学部附属病院感染症内科診療科長 岩田 健太郎
神戸市立医療センター中央市民病院感染症科医長 土井 朝子
兵庫県立淡路医療センター血液内科部長 野村 哲彦
兵庫県立明石医療センター総合内科医長 官澤 洋平
兵庫県立尼崎総合医療センター感染症内科医長 松尾 裕央
追記 2019年2月25日 中央会からお電話をいただきました。すぐに対応していただけるとのことで、追って県連合会からもご連絡いただく旨、お伝え下さいました。この場を借りて迅速な対応に感謝申し上げます。
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