注意! これは神戸大学病院医学部生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。
学生に与えられたレポート作成時間は総計5時間。月曜日に「質問形式」のテーマを考え、岩田が審査し、そのテーマが妥当と判断された時点からレポート作成スタート、火曜日のお昼まで、5時間かけてレポート作成します。水曜日などに岩田がこれに講評を加えています。2019年2月11日よりこのルールに改めました。
あくまでも学生レポートという目的のために作ったものですから、間違いもありますし、個別の患者には使えません。レポートの内容を臨床現場で「そのまま」応用するのは厳に慎んでください。
ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
免疫抑制剤がIE発生率に与える影響はどのくらいか
IEは弁膜や心内膜、大血管内膜に細菌集簇を含む疣腫を形成し、菌血症、血管塞栓、心障害などの多彩な臨床症状を呈する全身性敗血症性疾患である。IEの臨床経過には原因菌の相違による多様性があり、近年の傾向としては糖尿病、癌などの悪性疾患、免疫抑制をきたす病態や治療に伴うIEが増加している。今回はその中で、免疫抑制剤がIE発生率に具体的にどのような影響を与えるのかを調べた。
まず、IEの原因菌について調べてみた。神戸大学での2781例のIE患者を対象にした前向きコホート研究によるとS. aureus – 31%、Viridans group streptococci – 17%、Enterococci – 11 %、Coagulase-negative staphylococci – 11%、Streptococcus bovis – 7%、Other streptococci (including nutritionally variant streptococci) – 5%という結果になった。また、IEのリスクファクターとして、免疫抑制剤と関連のあるものを調べてみたが、他はみつけることができなかった。1)
S.aureusはIEの原因菌として最大であるが、免疫抑制剤である全身性グルココルチコイドの使用が市中感染黄色ブドウ球菌菌血症(CA-SAB)の危険因子であるかどうかについて調べた。初回のCA-SABを有する全成人を対象としたケースコントロールスタディを実施するために、デンマーク北部の人口ベースの医療記録を使用した。 新規または長期使用、元ユーザー、および非ユーザー。条件付きロジスティック回帰を使用して、グルココルチコイド曝露、全体および90日のプレドニゾロン等価累積線量に従って、CA-SABのオッズ比(OR)を計算した。シュミットらは2638人の初回CA-SAB患者と26,379人の一致した集団対照を同定した。現在の糖質コルチコイド使用者は、非使用者と比較してCA-SABの危険性がかなり高いことを確認した(調整OR = 2.48; 95%CI、2.12-2.90)。調整後のORは、新規ユーザーで2.73(95%CI、2.17-3.45)、長期ユーザーで2.31(95%CI、1.90-2.82)、元ユーザーは1.33(95%CI、0.98-1.81)と低くなっていた。CA-SABのリスクは、90日累積投与量が多いほど高くなった。グルココルチコイドを使用していない人と比較して、累積投与量が150 mg以下の人のORは1.32(95%CI、1.01-1.72)、累積投与量が500―1000mgの人の調整ORは2.42(95%CI、1.76-3.33)であった。累積投与量が1000 mgを超える人では6.25(95%CI、4.74-8.23)となった。2)
以上から、免疫抑制剤であるグルココルチコイド使用によって、IEの原因菌の第1位である、黄色ブドウ球菌の危険性が上昇するため、免疫抑制剤の使用によって、IEは上昇することはわかったが、今回のデータでは、市中黄色ブドウ球菌に対する、グルココルチコイドの使用でしか調べることができず、すべての免疫抑制剤において、IEの発生率に影響を与えるのかについてはわからなかった。
参考文献
1)Epidemiology, risk factors, and microbiology of infective endocarditis Authors:Daniel J Sexton, MDVivian H Chu, MD, MHSSection Editor:Stephen B Calderwood, MDDeputy Editor:Elinor L Baron, MD, DTMH Literature review current through: Jan 2019. | This topic last updated: Oct 26, 2018.
2)Mayo Clin Proc. 2016 Jul;91(7):873-80. doi: 10.1016/j.mayocp.2016.04.023. Epub 2016 Jun 8.Use of Glucocorticoids and Risk of Community-Acquired Staphylococcus aureus Bacteremia: A Population-Based Case-Control Study.
コメント ありそうで、なかったテーマで、着想がよかったです。議論も結論も妥当でした。
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