注意! これは神戸大学病院医学部生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員がスーパーバイズしています。そして本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。
学生に与えられたレポート作成時間は総計5時間。月曜日に「質問形式」のテーマを考え、岩田が審査し、そのテーマが妥当と判断された時点からレポート作成スタート、5時間以内に作成できなければ未完成、完成して掲載レベルであればブログに掲載としています。お尻に岩田が「寸評」を加えています。
あくまでも学生レポートという目的のために作ったものですから、レポートの内容を臨床現場で「そのまま」応用するのは厳に慎んでください。
ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
「蜂窩織炎に対するマクロライド・リンコサミドによる治療はβラクタムによる治療に比べて劣っているのか」
今回、私の担当患者は蜂窩織炎に対しての第一選択薬として、βラクタム系抗生物質であるスルバシリンを投与された。そこで私は、蜂窩織炎に対してβラクタムの他に治療薬があるのかについて疑問を抱き、本レポートで考察することにした。
1) Bergkvistらによると、蜂窩織炎に対する治療薬の第一選択はβラクタムと考えられているが、2)Stevens DLらによると、特にペニシリンアレルギーの患者に対しては、マクロライド・リンコサミドによる治療が推奨されている。
そこで、蜂窩織炎患者に対して第一選択薬としてマクロライド・リンコサミドを投与した場合に、βラクタムと比べて治療効果がどう変わるのかということについて考察する。
3)Ferreiaらは、蜂窩織炎患者に対して、βラクタム単独投与とマクロライド・リンコサミド単独投与のそれぞれの治療結果についてのランダム化比較試験を行った。比較するための指標は、治癒が認められなかった割合と、有害事象のリスクである。βラクタム単独投与の患者で治癒が認められなかった割合は12%(27/221)で、マクロライド・リンコサミド単独投与の患者で治癒が認められなかった割合は、9%(21/241)であり、治療効果に有意差は認めなかった。(リスク比1.24, CI 0.96-1.69 )副作用のリスクも、βラクタム単独投与患者で11%、マクロライド・リンコサミド単独投与患者で13%(リスク比0.86, CI 0.64-1.16)と有意差は認めなかった。治験薬に関係なく、最も頻度の高い副作用は胃腸症状(吐き気、嘔吐、腹痛、下痢)であった。再発は、βラクタム単独投与患者の1.8%、マクロライド・リンコサミド単独投与患者の1.4%で認められた。以上の研究結果から、Ferreiraらは蜂窩織炎に対して、マクロライド・リンコサミドによる治療はβラクタムによる治療と同等の有効性、副作用の発生率を有している、と結論づけている。
しかしこの研究には、研究対象の患者数が、βラクタム単独投与群:221人, マクロライド・リンコサミド単独投与群:241人と比較的少ないことや重症度などの患者背景が均一でないといった欠点がある。それらを考慮した上で判断すべきであり、この研究だけでは両者の優位性を完全に評価付けることはできないと私は考えた。今後さらなる比較試験が行われることで、両者の優位性が明らかになるかもしれない。
【参考文献】
1)Antibiotic and prednisolone therapy of erysipelas: a randomized, double blind, placebo-controlled study. Bergkvist PI, et al. Scand J Infect Dis. 1997
2)Practice guidelines for the diagnosis and management of skin and soft tissue infections: 2014 update by the infectious diseases society of America. Stevens DL, et al. Clin Infect Dis. 2014.
3) Meta-analysis of randomised trials comparing a penicillin or cephalosporin with a macrolide or lincosamide in the treatment of cellulitis or erysipelas. Athena Ferreira· Mark J. Bolland · Mark G. Thomas Infection (2016) 44:607–615 DOI 10.1007/s15010-016-0895-x
寸評:これはもう完全に失敗作で、それっぽいデータが有ってそこから逆算してレポートのテーマを思いつくという禁じ手です。なぜ、マクロライド、リンコサミドなのか。スーパーバイザーもそこを突っ込むべきでした。患者に寄り添って疑問を持ち、その疑問を正面から調べる。しんどいですけど、サボってはダメだよ。
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