注意! これは神戸大学病院医学部生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員がスーパーバイズしています。そして本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。
学生に与えられたレポート作成時間は総計5時間。月曜日に「質問形式」のテーマを考え、岩田が審査し、そのテーマが妥当と判断された時点からレポート作成スタート、5時間以内に作成できなければ未完成、完成して掲載レベルであればブログに掲載としています。お尻に岩田が「寸評」を加えています。
あくまでも学生レポートという目的のために作ったものですから、レポートの内容を臨床現場で「そのまま」応用するのは厳に慎んでください。
ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
血液培養で腸球菌が検出された時、どの程度コンタミネーションを考慮すべきか
コンタミネーションとは、血液培養(BC)からは菌が検出されたが、実際には患者の血液中には菌は存在せず、血液採取・培養の過程で菌が混入したことを指す。コンタミネーションが起こると、入院期間が延長し(平均4.5日)、投与される抗菌薬の費用が増加し(約39%)、その結果生じる経費増加は約50万円となる。
原則BC中から同定された場合菌血症を疑う菌種にはブドウ球菌、緑膿菌などがある。腸球菌はこれらに含まれない一方で、一般に腸管・尿路・カテーテル感染などに起因して腸球菌菌血症を起こすことが知られている。腸球菌についてはどの程度コンタミネーションを考慮すべきか疑問に感じたので、調べることとした。
過去の報告では、BC中から腸球菌が同定された場合のコンタミネーション率は11-30%とされている。一般的には、BC陽性が1セットのみ、陽性まで72時間以上、現行の治療中の感染巣の一般的な起因菌と異なる場合、などで発熱などの症状に乏しい場合コンタミネーションを考えやすい。
R.Khativらは、24時間以内に1セットのみ腸球菌が陽性という状況において、コンタミネーションと菌血症の割合とその判別に寄与する因子について、後ろ向き研究で報告している。コンタミネーションの定義は、感染の兆候がない症例や、通常腸球菌が起因菌にならない感染症の症例で感染巣から別の起因菌が同定された場合であり、カルテの経過からコンタミネーションか菌血症か不明の場合は菌血症として扱った。腸球菌の持続菌血症の症例を除いて257人から294件がBC陽性で、E.fecalisが213件(72.4%)、E.feciumが59件(20.1%)、両種混合または他菌種が22件(7.5%)であった。耐性株はバンコマイシン耐性(VRE)が40件(13.6%)、アンピシリン耐性(AmpRE)が25件(8.5%)であった。結果は、294件中コンタミネーションは90件(30.6%)であった。また耐性株ごとのコンタミネーションと判断された割合はVRE85%、AmpRE80%、両種混合または他菌種80%であった。同研究で、コンタミネーションとの区別に寄与する因子をロジスティック回帰分析で調べたところ、コンタミネーションを示唆する因子は、他の菌種も同時に測定(オッズ比OR:4.5,95%CI 2.6-9.89)、VRE(OR: 10.86 ,95%CI 3.6-32)、AmpRE(OR;7.2,95%CI 1.56-33.8)、尿路感染や腹腔感染ではない(OR;14.7,95%CI 5.4-39)などであった。
以上より、BC1セットから腸球菌が検出された場合、頻度のみからコンタミネーションを判断するのは難しいと感じた。コンタミネーションの判断は、BC結果以外に、患者さんの臨床所見、発熱などのバイタルサイン、胸痛、心雑音、頭痛、項部硬直、関節所見などを重点的に評価した上での判断となるだろう。
菌血症だけでは通常症状がないとされ、追加のBCの採取で持続菌血症を否定する必要があると思われる。上記のR.Khativらの述べる因子についての妥当性は後ろ向き研究の上にn数が少ないため、前向きコホート研究での確認が必要と考えられる。
【参考文献】
(1)R.Khativ et al;Enterococcus spp . in a single blood culture:bacteremia or contamination?;Diagnostic Microbiology and Infectious Disease 87(2017)289-290
(2)Bates DW et al:Contaminant blood cultures and resource utilization. The true consequences of false-positive results. JAMA 265 : 365,1991
寸評:これは端的には失敗のレポートです。が、学びは多かったですね。「総合的に評価」とか「nが少ない」とか「前向き研究での確認」みたいないかにももっともらしいフワフワワードにはご用心、なのでした。学会でもよく間違ってますね。
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